Armが中国事業を合弁化、EUは中国に対し警笛:強制された?
ソフトバンクは2018年6月、Armの中国事業部門の全株式の51%を、中国投資企業およびエコシステムパートナーに7億7520万米ドルで売却することにより、中国国内でArmの事業を展開するための合弁企業を設立すると発表した。これを受けてEUは、中国の法律が欧州企業の知的所有権を侵害しているとして、世界貿易機関(WTO)において訴訟を起こした。
ソフトバンクは2018年6月、Armの中国事業部門(Arm Technology China/以下、Arm China)の全株式の51%を、中国投資企業およびエコシステムパートナーに7億7520万米ドルで売却することにより、中国国内でArmの事業を展開するための合弁企業を設立すると発表した。Armは今回の合意に基づき、Arm Chinaのライセンスやロイヤルティー、ソフトウェア、サービス売上高などを全て、相当の割合で継続して受け取ることになる。
Armは2018年5月に、自社のIP(Intellectual Property)を既にこの合弁企業に移行しているため、Arm Chinaは、現地のチップ開発メーカーに対してライセンス技術を直接提供することが可能だという。これに対してEUが警鐘を鳴らし、欧州委員会委員長(貿易担当)であるCecilia Malmstrom氏は2018年5月28日の週に、中国の法律が欧州企業の知的所有権を侵害しているとして、世界貿易機関(WTO)において訴訟を起こした。
Armはソフトバンクの声明の中で、今回の取引を強制されたかどうかについては触れることなく、その論理的根拠について次のように述べる。「2017年に中国で設計された最新半導体チップの約95%はArmのテクノロジーを使用していたと推定され、また、2018年3月期において、Armの中国事業は同社売上高のうち約20%を占めた。中国は世界有数の規模を持つ重要市場であり、合弁事業が中国企業に対してArmの半導体テクノロジーのライセンスを行い、同テクノロジーを中国に根ざして開発していくことにより、中国市場におけるArmの事業機会はさらに拡大するものと見込まれる」
Armは、この声明に関するコメントを発表していないが、今回の取引の完了後、2018年6月中に発表が予定されているArm Chinaの売上高は、ソフトバンクとの連結決算として報告されることはないだろう。
国境での技術引き渡しは強要できない
EUのCecilia Malmstrom氏は、2018年6月1日に起こした訴訟の中で、「技術的革新やノウハウは、知識集約型経済の基盤であり、世界市場における企業の競争力を維持するとともに、欧州全体の数十万人の雇用を支えている。われわれはいかなる国に対しても、苦労して獲得した技術を国境で引き渡すよう強要することはできない。これは、WTOにおいて満場一致で合意を得た国際規則に違反する。主要プレイヤーが規則に従わないのであれば、システム全体が崩壊する恐れがある」と述べる。
EUの声明は、「中国に進出する欧州企業は、中国国内の事業体に対して、自社技術の所有権と使用権を与えるよう強制される他、技術移転合意の際に、市場ベースの条件について自由に交渉する権利を奪われる」と主張する。
要求された協議が60日以内に納得のいく解決に至らなかった場合、EUは、WTOを主体として協議の場を設定するよう、要請することができる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Arm SoCの開発部門を秘かに閉鎖していたQualcomm
Qualcommは2018年5月、データセンター向けのArmベースSoC(System on Chip)「Centriq」の開発部門を秘かに閉鎖した。これは、2016年10月に発表したNXP Semiconductors(以下、NXP)との合併による、10億米ドル規模のコスト削減の一環として計画されていたことだった。 - もはや一国でモノづくりは不可能、ZTE措置が突きつける現実
米国がZTEに対し、向こう7年間にわたり米国企業の製品を使えないという厳しい措置を決断した。その影響は既に出始めている。 - 「Cortex-A76」でノートPC市場も狙う、Armの戦略
Armは2018年5月31日(米国時間)、新しいモバイル向けCPUコア「Cortex-A76」を発表した。同社によると、Intelの最新「Core」プロセッサ(開発コード名:Skylake)の9割に相当する性能を実現できるという。 - ポスト京は高密度がカギ、富士通が試作チップを公開
富士通は、同社のプライベートイベント「富士通フォーラム2018 東京」(2018年5月17〜18日、東京国際フォーラム)で、ポスト「京」スーパーコンピュータ(スパコン)に搭載される予定の「CPUパッケージ」とCPUパッケージを搭載した「CPUメモリユニット」の試作機を公開した。 - 中国が新たに半導体ファンド立ち上げへ、5兆円規模か
中国政府が支援する投資会社が、国内の半導体産業の強化に向けて第2回資金調達ファンドを近く開設するという。調達額は、当初の予定を大きく上回るとみられる。 - 勝者なき貿易戦争? 先行き不透明なZTEへの措置
2018年4月、米国企業によるZTEへの半導体およびソフトウェアの販売を7年間禁止することが発表された。この決定が実行されれば、ZTEは壊滅的な打撃を受けると予想される。