「温めると8.5%も縮む」材料、東工大らが発見:光通信など精密な位置決めに応用
東京工業大学は、「温めると縮む」負熱膨張材料の合成に成功した。光通信や半導体製造装置などに用いる材料の熱膨張を抑制することが可能となる。
東京工業大学は2018年6月、「温めると縮む」負熱膨張材料の合成に成功したと発表した。精密な位置決めが要求される用途などで、材料の熱膨張を抑制することが可能となる。
今回の研究成果は東京工業大学の東正樹教授や山本孟大学院生(現在は東北大学助教)、今井孝大学院生および、神奈川県立産業技術総合研究所の酒井雄樹常勤研究員らの研究グループによるものである。
ほとんどの物質は、温度が上昇すると熱膨張が生じて、長さや体積が増大する。光通信や半導体製造装置などの用途に用いられる材料では、わずかな熱膨張が問題になることがあるという。これを解決するため、材料の熱膨張を補償するための負熱膨張材料が注目されてきた。しかし、現行の材料では体積収集の割合が1.7%と比較的小さかった。
負熱膨張化に極めて有効な電子ドープ
研究グループは今回、バナジン酸鉛(PbVO3)を負熱膨張物質化した。バナジン酸鉛は、強誘電体のチタン酸鉛(PbTiO3)と同じ極性のペロブスカイト構造を持つ物質である。体積収縮を比べるとチタン酸鉛は約0.6%にとどまるのに対し、結晶構造のひずみが大きいバナジン酸鉛は、チタン酸鉛に比べて1桁大きく、常圧下の昇温では相移転も生じないという。
実験では、2価の鉛イオンを一部が3価のビスマスイオンとランタンイオンで置換して電子ドープを行い、バナジウムイオンの価数を4価から3.76価に変化させた(Pb2+0.76La3+0.04Bi3+0.20V3.76+O3)。こうすることで、200〜400Kの温度域で結晶構造に変化が生じ、体積が8.5%も収縮することが分かった。
開発したPb0.76La0.04Bi0.20VO3について、X線回折実験による格子定数の変化や、熱機械分析装置を用いた試料長の変化を調べた。この結果、材料自身の本質的な負熱膨張であることを確認した。
今回の研究成果により、電子ドープが負熱膨張化に極めて有効であることが分かった。研究グループによれば、チタン酸鉛型のペロブスカイト化合物である「BiCoO3」「Bi2ZnTiO6」「Bi2ZnVO6」を、電子ドープによって負熱膨張化すれば、鉛を含まない負熱膨張材料を実現できるという。
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