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富士通三重工場の売却も決定……これからどうなる? 日本の半導体工場大山聡の業界スコープ(7)(3/3 ページ)

2018年6月末、旧富士通三重工場を運営する三重富士通セミコンダクターが台湾のUMCに売却され、2019年1月にはUMCの完全子会社となると発表された。今回の売却も含めて“日本の半導体工場”の現状および、今後の方向性について考えてみたい。

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「製造」を生かせる半導体とは?

 では自前の工場を持った方が有利なのはどんな半導体だろうか。Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyなどが上位を占めるメモリ事業、Texas Instruments、Analog Devicesなどが上位を占めるアナログIC事業が挙げられる。これらの半導体は、設計技術と製造技術を擦り合せることが重要視されているため、製造をファウンダリに委託するファブレスよりも自前工場を持つIDMの方が有利であり、シェア状況にもその傾向が現れている。


画像はイメージです

 東芝メモリも、メモリ事業のためには自社の四日市工場が不可欠だ。ソニーが得意とするイメージセンサーも、設計と製造を擦り合せるIDMスタイルの方が好ましいようである。ソニーは、長崎に自前の300mmラインを持っていたが、それだけでは能力不足であり、ルネサス エレクトロニクスから鶴岡工場を、東芝から大分工場を買収し、イメージセンサーに必要なプロセス技術を移植している。UMCへの売却が決まった富士通三重工場も、生産能力の約半分をソニーのイメージセンサー生産に充てている。これらの工場は、かつてはシステムLSIの生産拠点として重要視されていた時期もあったが、工場の稼働を維持することも、システムLSIの事業を立ち上げることもできなかった。

 今となっては結果論でしかないが、工場の稼働を維持するためには、

  • メモリ事業を諦めずに続ける
  • アナログ事業を強化する
  • ファウンダリー事業を強化する

という、いずれかの方法で製造技術の強みを生かすための戦略が必要だったのである。システムLSI(ロジックIC)のように、「設計技術で優劣が決まり、製造はどこでも構わない分野」を選択してしまったということが日系各社の反省点だろう。

アナログIC事業強化の動きに期待

 今回は古傷を引っかき回すように苦言を呈してきたが、現時点でアナログIC事業を強化しようとする日系企業が多く存在する点はポジティブに評価したい。特にロームは、日系の中では欧米企業に対抗し得る規模を持つ企業で、自前の製造ラインを強化しようとする元気も持ち合わせている。今のところまだ目立った発表はないが、ロームの工場の活用方法に着目しながら、これに続くアナログICメーカーの活性化に期待したいものである。

 「ものづくり」を大事にしたいのなら、工場の強みを生かすことが重要だ。アナログIC、パワーデバイス、センサーといった製品分野なら、設計と製造を分離しないIDM型の強みが生かせるだろう。日本の半導体工場の活用方法は、この辺りに解があるはずだ。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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