1つのシリコンを使い尽くす ―― 米国半導体メーカーの合理的な工夫:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(27)(3/3 ページ)
半導体チップ開発は、プロセスの微細化に伴い、より大きな費用が掛かるようになっている。だからこそ、費用を投じて作ったチップをより有効活用することが重要になってきている。そうした中で、米国の半導体メーカーは過去から1つのチップを使い尽くすための工夫を施している。今回はそうした“1つのシリコンを使い尽くす”ための工夫を紹介していく。
Qualcommのドローン用プラットフォーム「Snapdragon Flight」
Qualcommが2015年に発表し、中国で採用が始まっているドローン向けプラットフォームである「Snapdragon Flight」は、スマートフォンで使われた多くの実績のある「Snapdragon」のシリコンがそのまま使われている(チップ開封により確認済み)。このような事例が多い米国半導体メーカーに比べると、日本の半導体メーカーは、シリコンの種類が多い。シリコン種を増やすことによる、異なる方向性の最適化が行われる傾向が強い。先のTIの例では、多くの通信方式があらかじめチップに実装されており、使わない機能も同時にチップに搭載されている。「A+B+C;D」のチップはサイズが大きく、「A+B+C」だけならば「D」の分だけ面積を小さくでき、その分がシリコンコスト(取得数向上)低減につなげることができる可能性が高い。米国は1つのシリコンだが、日本では各チップの最適化を求めてシリコン種を増やしてしまうケースが多いように見受けられる。数多くの日本メーカー製マイコンも開封して確認した上での感想だ。
シリコンの種類を増やせば、パッケージから治工具、テストまで新たに作ることになる。果たしてどちらが合理的か、改めて考えてみる必要があるだろう。高騰する開発費、難易度が高まる設計、競争が激しくなるシステム開発などを鑑みれば、シリコンの種類を増やすことよりも、いかに合理的にチップを作っていくかが、ますます重要になっていくはずだ。
「RYZEN 2400G」と「RYZEN 2200G」も全く同じ!?
図3は、2018年に米AMDが発売を開始したAPU(GPU+CPUアーキテクチャ)の新チップ「RYZEN 2400G」「同2200G」のチップ開封の様子である。仕様はコア数、スレッド数、動作周波数などは異なっているが、シリコンは同じものであった。チップの出来栄え次第で、ほんの一部が動かないチップ(=欠陥密度の関係でコアの1つに不良が出たチップなど)を下位チップとして利用しているものと推測される。不良があっても、ユーザーが使用する部分でなければ、ユーザーは全く不便を感じるわけでなく、これはこれで極めて合理的なスタイルだといえる。シリコンを無駄にしないという点で高く評価すべきだ。図4はIntelの事例である。Intelはこうしたシリコンの面利用の実績は非常に多く、一例を挙げるにすぎないが、徹底したシリコンの面利用が長年続けられている。
日本の半導体衰弱の一つの原因か
シリコンは冒頭で触れたように開発に膨大な費用がかかる。費用を最小化し、せっかく作ったものを面にして、さまざまな市場、さまざまな用途に使うことがより重要になっていく。
日本のシリコン種の多さが、実は日本の半導体衰弱の一つの原因だったのではなかろうか(この点については今後事例を示しながら言及していきたい)
シリコン種を増やさない事例は、中国メーカーでも事例が出てくるなど、年々増えている。チップを購入して調査する立場としては、パッケージ名こそ異なるものの同じシリコンに出くわすばかりで困りものだが……。
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筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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