ホウ素の分析強度を3倍に、半導体の性能向上に期待:東北大らが分光器を改良
東北大学らの研究グループは、現行の電子顕微鏡用軟X線発光分光器(SXES)を改良し、ホウ素の分析強度を3倍以上に高めることに成功した。
濃度10ppm以下のホウ素検出と分布の可視化が可能に
東北大学多元物質科学研究所先端計測開発センターの寺内正己教授と羽多野忠助教、量子科学技術研究開発機構の小池雅人客員研究員および、島津製作所と日本電子は2018年8月、現行の電子顕微鏡用軟X線発光分光器(SXES)を改良し、ホウ素の分析強度を3倍以上に高めることに成功したと発表した。
ホウ素は、微量でも鉄鋼材料や半導体デバイスの特性に大きな影響を与えるといわれている。このため、微量のホウ素を分析することができれば、軽量で高強度の鋼板や、効率の良い半導体チップの開発につながる可能性が高い。
寺内氏らはこれまで、SXESを用いた発光分析システムの開発に取り組んできた。2013年には、日本電子がその成果を分析装置として商品化した。その後も性能向上に向けて共同研究を続けてきた。今回は小池氏が、ホウ素の分析強度を高めるための分光配置と回析格子への増反射膜形成の設計を行った。これに基づき、島津製作所が回析格子を作製、寺内氏と羽多野氏が回析格子表面に希土類元素の成膜を行った。
研究グループは、開発した回析格子を組み込んだSXESを試作し、実証試験を行った。テストの結果、ホウ素の信号強度が3倍以上に増強したことを確認した。今後は、日本電子が販売している汎用SXESにも新しい回析格子を搭載して、実用テストを行う予定である。理論的にはさらなる強度向上が見込めるという。このため、鉄鋼材料や半導体材料に添加された濃度10ppm以下のホウ素検出とその分布を可視化できる装置の開発につながる可能性が高い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東北大、AlB2で線ノード型ディラック粒子を発見
東北大学は2018年7月、2ホウ化アルミニウム(AlB2)が「線ノード型ディラック粒子」という特殊な電子状態を持つ物質であることを発見した。 - グラフェンナノリボンで不揮発性メモリ、東北大が開発
東北大学は2018年8月8日、原子オーダーの厚みを持つシート材料である「グラフェンナノリボン(GNR)」を用い、耐環境性に優れた新型メモリの開発に成功したと発表した。水中でも動作可能なフレキシブル不揮発性メモリなど、幅広い応用が期待できる技術としている。 - 磁気トンネル接合素子、直径3.8nmで動作確認
東北大学電気通信研究所の大野英男教授らによる研究グループは、不揮発性磁気メモリ「STT-MRAM(スピン移行トルク−磁気抵抗RAM)」の大容量化を可能とする磁気トンネル接合素子の新方式を提案し、動作実証に成功した。 - 新磁性薄膜材料を開発、ファラデー効果は40倍
電磁材料研究所や東北大学、日本原子力研究開発機構らの研究グループは、ファラデー効果が従来の約40倍となる磁性薄膜材料の開発に成功した。 - STT-MRAM用テスト装置、測定が2万倍高速に
東北大学とキーサイト・テクノロジーは、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)の信頼性評価を高速かつ正確に行う技術を開発した。従来システムに比べ2万倍も高速に測定することができる。 - 電子顕微鏡による3次元ナノ計測、AIで高速化に成功
東北大学と防衛大学校は、AI(人工知能)技術を用いて、集束イオンビーム−走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)による3次元ナノ計測を、高い解像度で高速に行える技術を開発した。