ファウンドリー業界の覇権を握り続けるTSMC:揺るがぬ優位性(2/2 ページ)
半導体ファウンドリーの先駆けとなる1987年のTSMC設立から30年以上がたったが、620億米ドル規模のグローバルビジネスにおける台湾の優位性が衰える気配はない。TSMCは2017年、ファウンドリー業界の世界売上高の約52%を占めた。
台湾ファウンドリーの懸念点
台湾のファウンドリービジネスに批判すべき点があるとすれば、施設の多くが1エリアに集中しており、さらに台湾にはいくつかの活断層があることから、一部の関係筋に緊張をもたらしていることだ。
残念ながら、台湾の地震活動が活発であることは否定できない。2018年2月6日、台湾東部の花蓮沖でマグニチュード6.4の地震が発生し、17人が死亡、280人以上が負傷した。2年前の同日にも、台湾南部で別のマグニチュード6.4の地震が発生し、117人が命を失った。
批判的な見解として、「台湾の大地震が世界の半導体ビジネスを壊滅させる可能性がある」という声が上がっている。世界各国にある、TSMCが所有する11のフロントエンド対応製造工場のうち、8施設が台湾にある。その中には、1カ月当たり10万枚以上のウエハーを生産できる先進の300mmウエハーラインを備えた“ギガファブ”4施設も含まれる。これらのギガファブのうち2施設は、台北近郊の新竹サイエンスパーク(Hsinchu Science Park)にあり、そこから南に約200kmの台南市に1施設、台湾中部に1施設がある。
TSMCの広報担当のElizabeth Sun氏によると、TSMCの300mm生産工場は全て、少なくともマグニチュード7.0の地震に対する耐震性を備えた設計になっているという。Sun氏は、「TSMCは台湾の複数の拠点で事業を展開している。台湾の断層はほとんどが100kmよりも短いため、1つの大地震によって複数の拠点の生産が中断される可能性は低い」と説明している。
IHS MarkitのJelinek氏は、「TSMCが建設した新工場は、いずれも比較的耐震性が高い。TSMCの工場は、被害を受けたとしてもダメージを最小限に抑えられるだろう。確かに、地震発生時に処理されているウエハーはいくらかロスが出るかもしれないが、壊滅的な大ダメージを受けることはほぼないと考えられる」と述べている。
それでもなお、「台湾へのファウンドリー施設の一極集中は、大惨事が起こる危険性をはらんでいる」と警鐘を鳴らす声がやむことはない。
IC Insightsでプレジデントを務めるBill McClean氏は、「大惨事の危険性はある」としている。同氏は、「大地震は被害をもたらし、サプライチェーンの混乱を招く」と警告している。
McClean氏は、「TSMCと台湾の他のファウンドリーは多様な顧客を抱えているため、大惨事が発生すれば非常に多くの企業や多くの部品に影響が及ぶことになる。これら部品の多くは、2次供給では製造されていない。だが、ほとんどのシステムサプライヤーは、こうした状況を想定していない」と述べている。
TSMCのライバルのファウンドリーベンダーは、台湾へのファウンドリーの集中に対する不安に乗じて、2次供給源をなんとしても確保したいと考える企業に自社の優位性をアピールしている。
ファウンドリー事業を拡大する中国
近年、中国の半導体ファンドリー事業は急速に成長している。業界観測筋の多くは、今後数年間で中国はファウンドリーの役割を拡大すると予測している。中国政府は、半導体産業を強化すべく、今後10年間で1610億米ドル以上を費やす予定だ。
中国は現在、TSMCや他の経験豊富なプロセスエンジニアを積極的に募集している。多くのファブレス半導体メーカーが成長しつつあることから、それに伴って中国のファウンドリー市場の重要度が高まるのは当然だといえるだろう。
TSMCは現在、上海に200mmウエハー製造ラインを備えた工場を所有している。さらに、中国国内の2つ目の製造工場として、南京に300mm製造工場を2018年後半にも開設する予定だ。この南京工場では16nmプロセスでの生産が可能である。
ただし、現在中国で行われている大半のファウンドリーは後工程を手掛ける。中国のファウンドリーとしては最も先進的といえるSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corp.)の工場ですら、最先端から2世代遅れている。米国の輸出規制により、米国の製造装置メーカーは、最先端の製造ツールを中国に販売することはできない。
2000年に設立されたSMICは、ファウンドリーの世界売上高ランキングでは第5位となっている。2017年の売上高は31億米ドルあった。
Jelinek氏は、中国のファウンドリー市場は今後も成長が続くとみているが、最先端のプロセス技術を備えたファウンドリーの設立は、中国にとって難しいとの見解も述べている。「14nmプロセス以下の技術を開発するには相当の資金が必要だ。中国企業は、まだそうした投資はできていない」(同氏)
さらに重要なポイントは、Huaweiの子会社であるHiSiliconなどの中国のファブレスチップメーカー以外では、中国のチップベンダーがそれほど最先端のプロセス技術を必要としていないということだ。「チップの大量生産を行うQualcomm、NVIDIA、Apple、Xilinxといった企業は、TSMCが持つ最先端プロセス技術の活用に満足している」(Jelinek氏)
Jelinek氏は、「たとえ中国のファウンドリー企業が最先端プロセス技術を提供している、とアプローチしたとしても、TSMCやSamsung、GLOBALFOUNDRIESを活用しているチップベンダーが、中国のファウンドリーに乗り換えるとは考えにくい」と付け加えた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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