Arm MLプロセッサ、明らかになったその中身:モバイル機器でのエッジAI向け(5/5 ページ)
2018年8月に開催された「Hot Chips 30」では、Armの「ML Processor(MLプロセッサ)」の中身が明らかになった。その詳細を解説する。
モバイル機器でのEdge AIに向けたソリューション
Armによる説明はおおむねこんなところだが、少し説明を補足しておきたいと思う。
冒頭にも書いたが、Arm MLプロセッサのメインターゲットは現時点ではMobile SoCである。要するにスマートフォンやタブレット上でのEdge AIに向けたソリューションである。Edge AIといえば、つい最近もLeap Mindのこんな記事(「エッジAIを安価・高速に、FPGAを駆使するベンチャー」)があって、こちらはこちらですごく正しいのだが、実際にはArmのMLプロセッサとはまず競合しない(というか、し得ない)。
理由は簡単で、FPGAがスマートフォンの中に入らない(というか、入れない)からだ。もちろん、PMICとかI/Fなどに向けて、それこそLattice Semiconductorの「ICE40」クラスの物が搭載されることは珍しくないが、これはあくまでもGlue Logic向けであって、Programmableなソリューションとしては利用できない。
もし将来、Mobile向けSoCに内蔵される形でFPGA Fabricが搭載されれば、そこではLeap Mindのソリューションが生きてくるだろうが、そこまではそれこそQualcommやHiSilicon、そして今回のArm MLのような専用アクセラレータが幅を利かせ続けるだろう。Leap Mindのソリューションは、スマートフォン以外のEdge Deviceを当面は主戦場とすることになり、将来Arm MLプロセッサのIPがスマートフォン以外をターゲットにした時にぶつかるという形になると思われる。
もっとも、そうした時期はそう遠くないかもしれない。写真1は2018年6月の「COMPUTEX TAIPEI」におけるArmの発表会会場で展示されていた例だが、Cortex-M7のDSPを利用してArmNNを動かし、ここの上で画像認識を行っている例である。
やっていることは簡単で、撮影しているものが自動車か否かを判定しているだけだが、この程度の用途(例えば自動販売機の前に人間が立ったら照明をOnにするとか)で良ければ既存のDSPベースでもなんとかなる。ここに例えば1〜2 Compute Engineを搭載したArm MLプロセッサが統合されていれば、消費電力を落としつつ更に高いスループットで認識が可能になるだろう。MLプロセッサ統合MCU vs MCU+FPGAという戦いは、意外にすぐ始まりそうな気もする。
それはともかく。今回のArm MLプロセッサでやはり肝になるのはコンパイラということになるだろう。特に図20に出てきたTilingにあたるような、うまく作業を分散させてDRAMへのアクセスを最小に抑えるような仕組みは、どっちかといえば動かしてProfileを取って、それを基に調整を掛けて……という作業が必須(というか、これ無しでStatic Analysisだけでどこまで最適化ができるのかが疑問)である。
コンパイラの中でシミュレーションまで可能だったりするのか、それともArm MLプロセッサ側にProfileを取る仕組みも用意されているのか、現状では情報が一切ない。情報がないと言えば、Programmable Layer Engineの中のVector Processorに何ができるのか、ということも、現状不明なままである。ただし図2にあるように、2018年中にはこのArm MLプロセッサの提供を予定しているので、それに合わせて細かな開発者向け情報が出てきてくれるはずである。2018年10月に米国シリコンバレーで開催される「Arm TechCon 2018」では、この辺りの詳細が明かされることを期待したいものだ。
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