東北大ら、Fe-Ga単結晶製造と加工技術を開発:振動発電デバイスのコストを低減
東北大学多元物質科学研究所と金沢大学、福田結晶技術研究所の研究チームは、振動発電デバイスのコスト削減を可能にする単結晶製造技術および、板状に加工する技術を開発した。
CZ法とマルチワイヤソーを活用して実現
東北大学多元物質科学研究所と金沢大学、福田結晶技術研究所の研究チームは2018年10月、振動発電デバイスのコストを大幅に削減できる単結晶製造技術および、板状に加工する技術を開発したと発表した。電池フリーで長期間利用可能なIoT機器などでの応用を目指す。
金沢大学の上野敏幸准教授らによるグループは、電池の代替技術として注目を集める振動発電に関して、Fe-Ga合金の単結晶板を利用する「磁歪振動発電技術」を開発してきた。Fe-Ga合金はエネルギー変換特性に優れている。特に、単結晶は振動発電デバイスとしての性能が格段に優れているという。半面、単結晶板の製造コストが高くなり、実用化に向けた課題となっていた。
今回の研究では、福田結晶技術研究所の福田承生社長らによるグループが、チョクラルスキー(CZ)法を用い、直径約10cm(4インチ)で直胴10cmのFe-Ga単結晶合金を製造することに成功した。CZ法は良質の単結晶を育成できる手法だが、特に大型の結晶を成長させるには炉内の温度管理など、さまざまなノウハウや工夫が必要だった。今回は、基本的な温度最適構造を見いだすことに成功した。温度勾配を制御する周囲の保温材についてその配置を工夫し、結晶進行を促進することで単結晶の大型化を実現した。
さらに、磁歪振動発電における最適組成の検討を行っている東北大学多元物質科学研究所の鈴木茂教授らによるグループと、福田結晶技術研究所が開発した方法を組み合わせることで、磁歪振動発電として最大の特性を示す単結晶の製造が可能になるとみている。
開発した大型単結晶を、低コストで板状に成形する技術も確立した。Fe-Ga単結晶合金の加工にはこれまで、放電加工機が用いられてきた。ところが、ウエハー1枚の作製にほぼ1日要することから、生産性が十分ではなかった。今回は、スライス加工にマルチワイヤソーを用いた。砥粒などの条件を最適化すれば、単結晶のインゴッドから板材にするまでの加工時間は、数時間から半日程度で済むようになった。
試作したFe-Ga単結晶合金の板は、外形寸法が8×26mmで厚みは1mmである。振動発電デバイスは、周波数20〜100Hzの振動により、ミリワット級の出力電力が得られることを確認している。
製造プロセスの改善などにより、単結晶板を1枚当たり数百円で製造することが可能になるという。この結果、「乾電池を搭載した従来の応用モジュールに比べて、半分以下のシステム価格に抑えることができる」と研究チームは試算している。
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