MIの取り組み強化、材料開発の期間を半減へ:失敗した時のデータも取り込む
パナソニックは、材料探索や新材料の開発手法として注目されている「マテリアルズインフォマティクス(MI)」の取り組みを強化する。新材料開発にかかわる研究期間の半減が目標である。
材料技術とAI技術の融合で材料探索を加速
パナソニックは、創業100周年を記念して全社ユーザーイベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」(2018年10月30日〜11月3日)を東京都内で開催している。本稿では、最新の技術を紹介するセミナーの中から、「材料・デバイス開発のゲームチェンジ〜マテリアルズインフォマティクスへの挑戦〜」について、その概要を紹介する。
同講演で、パナソニックのテクノロジーイノベーション本部で本部長を務める相澤将徒氏は、「材料探索や新材料の開発手法として、AI(人工知能)技術やビッグデータ解析を活用するマテリアルズインフォマティクス(MI)が注目されている」と語る。パナソニックとしてもMIに対する取り組みを強化し、「新材料開発にかかわる研究期間をこれまでの半分に短縮する」という方針を示した。
相澤氏は冒頭、地球温暖化抑制に向けた世界の取り組みを紹介した。先進国は2050年に向けて大幅なCO2排出削減目標を掲げている。これを達成するために、これまでの「化石燃料」から「再生エネルギー」へと、電源構成を切り替えていく動きを強めている。こうした中でパナソニックは、「パナソニック環境ビジョン2050」を掲げ、「創・蓄エネルギー事業の拡大」などに取り組む。具体的には、太陽電池やリチウムイオン電池、燃料電池などのクリーンエネルギー技術を一段と進化させていくことで、カーボンフリー社会の実現に貢献する方針である。
クリーンエネルギー技術を進化させていくために、同社が注力しているのが「材料革新」である。その開発手法として、パナソニックはMIを挙げた。モノづくり企業としての強みを生かし、MIに対する取り組みを強化する方針を明らかにしている。相澤氏は同社が手掛けるMIの特長として、「データ」「AI」「評価」の3つを挙げた。
例えば、デバイスの材料開発で培ったさまざまな経験と豊富な資産をデータとして活用する。失敗事例も含めて100年分の膨大な実験データを蓄積しているという。これらの実験データに、計算データや世界中の公開されたデータなども統合し、材料組成−特性のデータベースを構築する。相澤氏は、「実験データは成功した事例だけでなく、失敗した時のデータも取り込んでいる」ことを強調した。「戦略的にネガティブデータを蓄積することは、材料研究における勝者になるための条件かもしれない」という見方をする人もいる。
AIに関しては、システム開発で実践した経験のあるAI技術者を材料研究に投入する。材料技術とAI技術を融合させることにより、予測精度が向上し材料探索を加速させることができるという。実際に、優れた特性を持つ新たな熱電材料を発見できたことも紹介した。
また、先端解析技術で得られた原子/分子・ナノレベルの評価をデータにフィードバックすることで、全固体電解質におけるリチウムイオン挙動解析に成功するなど、着実に成果を上げている。
電池を事例に、MI時代における研究開発の進め方についても、その概略を紹介した。MIを活用して探索した新材料を、マルチスケールシミュレーションや実機を用いて、その容量や充放電特性、寿命、安全性などを評価する。評価結果はフィードバックし、新材料の開発に生かす。実験条件もAIで導き出し、最適制御を行う。これにより、「実機評価のための試作件数を削減できる」という。
パナソニックが目指す材料開発の未来像について相澤氏は、「新材料の研究開発期間を半減し、高性能で高機能製品を短期間で市場に投入したい」と語り、講演を締めくくった。
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