魅力あるIoTエッジの開発アプローチに垣間見るプラットフォーム提供の在り方:製品分解で探るアジアの新トレンド(33)(3/3 ページ)
今回は、スマートフォン用チップセットを流用したクラウド翻訳機「POCKETALK W」や、中国チップ群で面を形成するIoTエッジ開発キット「M5Stack」を解剖し、その開発アプローチから垣間見えるプラットフォーム提供の在り方を考える。
先入観を持たず“事実”を認めるべき
図4を、中国チップだらけだなあ、と否定的に眺めてもらうことも結構だが、中国チップだけでIoTエッジの所望の機能を全て賄えているという事実を改めて認識することが重要だ。この製品は一例に過ぎずスマートスピーカーやクライド翻訳機のような分野にも中国チップだけで構成されているものが増えている。
本稿の前半で紹介したような、Qualcomm、MediaTekらのようにスマートフォンのプラットフォームを応用し、IoTエッジに参入するプレーヤーもいれば、中国のようにチップセットを中国半導体で形成し、面を作りながら、エッジに参入してくるプレーヤーもいる。日本製品にはこうした面を作る力は、弱いように思われる。
図5は、日本製品であるルネサスエレクトロニクスのGR-LYCHEEの様子である。GR-LYCHEEはIoT向けとしてカメラと無線を有するリファレンスボードである。このボードにはルネサスエレクトロニクスのRZマイコンが核デバイスとして搭載される、これも非常に優れたボードである。本ボードには9個(CMOSセンサーまで含めて)の機能半導体が使われる。その9個のうち、日本製半導体は、わずかにルネサスエレクトロニクスのRZマイコン(RZ/A1)だけだ。
先に紹介したM5Stackは、中国製半導体で面を作っているのに対して、GR-LYCHEEは、日米台中欧の世界地図のような構成となっている。対極的だと言わざるを得ない。
こうしたボードは、リファレンスとなり、応用商品への入り口としての機能を持っている。いずれにせよ多くの差がありながらも、類似製品群は生まれているわけだ。今後も抜かりなく、類似製品でも可能な限り入手し、観察、比較を継続していくことにしたい。
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