電磁波が散乱しないトポロジカルLC回路を作製:表面線状導体箔を蜂の巣構造に
物質・材料研究機構(NIMS)と中国Tongji大学らの研究チームは、伝送経路が鋭角でも電磁波が散乱しない「蜂の巣状トポロジカルLC回路」の作製に成功した。
電磁回路をコンパクトに設計できる
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)の古月暁MANA主任研究者と苅宿俊風研究員、中国Tongji大学Hong CHEN教授らによる研究チームは2018年11月、伝送経路が鋭角でも電磁波が散乱しない「蜂の巣状トポロジカルLC回路」の作製に成功したと発表した。この技術を用いるとコンパクトな電磁回路の設計が可能になるという。
研究グループは、シリコンなど誘電体の円柱を蜂の巣格子に組むことで、光・電磁波のトポロジカルな性質が得られることを2015年に明らかにした。今回は、高周波電磁導波路として知られる「マイクロストリップ」に注目した。マイクロストリップにおいて、表面線状導体箔が蜂の巣構造となるように設計し、六員環をつくる金属箔と六員環同士をつなぐ金属箔を異なる線幅にすれば、伝送される電磁波がトポロジカルな性質を持つことを理論的に見いだした。
その上で、表面線状導体箔が蜂の巣構造のマイクロストリップを作製し、表面の電場を測定した。そうしたところ、マイクロストリップ内部で決まった方向の電磁エネルギー渦巻きを作りながら波及するトポロジカル電磁波の様子を詳細に観測することができたという。
線状金属箔の線幅が異なる場合に、マイクロストリップの分散関係は周波数バンドギャップを示し、電磁波がバルクを通過できない周波数領域が現れる。試作したマイクロストリップは、線状金属箔の線幅比(τ)が上半分と下半分で、「1以上」と「1以下」になるよう設計した。上下それぞれの部分は、バンドギャップが同じ周波数になるよう、線状金属箔の幅とキャパシタンスを最適化した。
上下の境界中間点にアンテナを設置し、線偏光をした電磁波をシステムに注入したところ、電磁波は六員環の中でそれぞれ時計回りと反時計回りの渦巻きを作っていることが分かった。
今回の研究では、簡単な加工を行うだけで、トポロジカルな性質を持つ電磁波の伝送が可能になることを実証した。トポロジカル電磁伝送は鋭角や直角の経路からも散乱を受けないため、コンパクトな電磁回路を設計することが可能になるという。さらに、今回発見した設計原理とトポロジカル特性は、量子情報処理に用いられる回路にも拡張することが可能とみている。
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