NIMS、異方性磁気ペルチェ効果を初めて観測:単一の磁性体で加熱や冷却が可能
物質・材料研究機構(NIMS)は、電流を曲げるだけで熱制御が可能な「異方性磁気ペルチェ効果」の観測に初めて成功した。
ロックインサーモグラフィ法で温度変化を計測
物質・材料研究機構(NIMS)は2018年5月、電流を曲げるだけで熱制御が可能な「異方性磁気ペルチェ効果」の観測に初めて成功したと発表した。これまでのように2つの異なる物質を接合した構造ではなくても、単一の磁性体のみで加熱や冷却が可能となる。
今期の研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究拠点スピンエネルギーグループの内田健一グループリーダーと井口亮研究員および、東北大学材料科学高等研究所・金属材料研究所の大門俊介大学院生(現在は東京大学助教)と齊藤英治教授(現在は東京大学教授)らが共同で行った。
内田氏らの研究チームは今回、ロックインサーモグラフィ法と呼ぶ熱計測技術を用いて、ニッケル(Ni)試料に電流を流した時に生じる温度変化を詳細に測定した。この計測技術は、周期的に変化する電流を試料に印加しながら、表面の温度分布を赤外線カメラで測定。そして、フーリエ解析を行い電流と同じ周波数で時間変化する温度を選択的に抽出して可視化する。電流の周波数を高めることで熱拡散による影響を抑え、発熱源や吸熱源の位置を特定できるという。
今回の実験では、強磁性金属であるNiを「コの字」型に加工して磁化させた。コの字形状の角部分は、電流と磁化が平行な領域と直交している領域の境界となっている。この部分はペルチェ係数が異なり、電流を流すと角付近に温度変化が生じる。しかも、温度変化は電流に比例して増大することが分かった。
研究チームによれば、「実験に用いた試料はNiのみで、異なる物質の接合はない」「Niが磁化していないときは温度変化が生じない」のが大きな特長だという。これらの結果から、一連の振る舞いが異方性磁気ペルチェ効果に由来したものであることを実験により証明した。
異方性磁気ペルチェ効果を活用することで、「単一の磁性体による電子冷却」や「磁性体の形状や磁化分布の最適化で熱電変換特性を再構成」「局所的な磁化による任意箇所の温度変調」といった機能を実現することができるという。
研究チームによれば、Niの異方性磁気ペルチェ効果は、従来のペルチェ効果の数%程度にとどまるなど現状ではまだ小さい。ただ、Niにスピン軌道相互作用の大きな元素(プラチナ、パラジウム)を少量加えるだけで、温度変化が数倍も大きくなることを既に確認しているという。
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