AIプロセッサを開発した東芝メモリの狙い:メモリ以外での勝負も必要に?(3/3 ページ)
東芝メモリは2018年11月6日、ディープラーニング専用のプロセッサを開発したと発表した。今回同社が開発したのは、推論向けの技術。アルゴリズムとハードウェアの協調設計により、従来の方法に比べて認識精度をほとんど劣化させずに演算量を削減し、推論の高速化と低消費電力化を図ることに成功した。
なぜ、東芝メモリがAI専用プロセッサを開発したのか
東芝メモリによれば、現時点では、開発した技術について具体的な事業化の計画は明確には定まっていないという。とはいえ、狙っていくアプリケーションはいくつか想定している。その一つが、エッジにおける推論だ。クラウドではなくエッジで推論をさせようという動きは、組み込み分野などで盛んになっている。
同社のシステム技術研究開発センター システムコア技術開発第二部で回路設計主幹を務める藤本竜一氏は、「今回開発した技術の特長の一つが省エネルギー化なので、エッジとは相性がよいと考えている。実際にスマートフォンやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)で推論を実行するものも出てきているので、そうしたコンシューマー分野での活用も想定している」と述べる。
さらに、データセンターも視野に入れている。データセンターが消費する電力は増加の一途をたどっており、少しでもそれを削減しようとする動きが世界的に広まっている。「開発した推論向けプロセッサ技術はデータセンターにも十分適用できる。どのようにデータセンター市場に参入していくかを検討中だ」(藤本氏)
さらに藤本氏は、「AIにおいて必要なのは、計算機のパワーと大規模なストレージだと考えている」と述べ、今回の推論向けプロセッサ技術を、同社のメモリおよびストレージ技術と組み合わせることで、東芝メモリならではの強みを発揮できることを示唆した。
IPとして提供する可能性も
東芝メモリの経営企画部で企画担当 参事を務める山路航太氏は、「具体的な事業化の計画は決まっていない」と繰り返しながらも、「実際にチップとして製造することになった場合は、ロジックICの製造ラインを持つ工場に製造委託する、もしくはIP(Intellectual Property)として提供するというビジネスモデルが最も自然なのではないか」と述べた。
東芝メモリの研究開発センターでは、今回発表した技術以外にもさまざまな研究開発が行われている。こうした開発の中には、これまで東芝メモリが事業としては手掛けていない分野もある。「こうした研究開発のプロジェクトの中から、ある日突然、製品を出せる、というわけではない。顧客と話す中で、開発中の技術の事業化や製品化の道筋が明確になっていくと考えている。われわれの(メモリ以外の)技術を知ってもらい、他社ともうまくパートナーシップを組むことも、事業化や製品化には重要になるだろう」(藤本氏)
藤本氏は、「今回の技術に限らないが、2020年代の前半には、(研究開発中の技術を)何らかの形で事業化できれば」と語った。
今回、東芝メモリは推論向けプロセッサの技術を発表したが、同じような動きとしてWestern Digital(ウエスタンデジタル)が、データセントリックコンピューティングを加速すべく、RISC-Vプロセッサの開発に本腰を入れている(関連記事:データ中心を加速、WDがRISC-Vプロセッサ開発に本腰)。こうした動きについて藤本氏は、「メモリを手掛けるメーカーは、データセントリックコンピューティングを見据えていると考えている。当然、われわれも目指していかなければならない領域だ。メモリメーカーとして、今後、メモリ以外も手掛けることが可能なのかどうか。それはまだ分からないが、そのような方向も模索すべき時に来ていると考えている」と述べた。
藤本氏は、「当社のビジネスは、現在はその大半がNANDフラッシュだが、将来に向け(NANDフラッシュ以外にも)いろいろな方向性を探っている。ディープラーニングにおいて、東芝メモリが貢献できることは必ずあると確信している」と強調した。
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