IBM、メモリ向けに銅の磁性を用いる研究を発表:先端技術開発
メモリ技術のイノベーションは、全て基礎研究から始まる。IBM Researchの開発チームは今回、単一の銅原子の磁性を制御するための新しい技術を開発した。この技術によって、個々の原子核に情報を保存したり処理することができるようになるとみられる
メモリ技術のイノベーションは、全て基礎研究から始まる。IBM Researchの開発チームは今回、単一の銅原子の磁性を制御するための新しい技術を開発した。この技術によって、個々の原子核に情報を保存したり処理することができるようになるとみられるが、何らかの形で実用化を実現するには、まだ長い道のりになるだろう。
IBM Researchの科学者であるChristopher Lutz氏とKai Yang氏は、英国の科学雑誌「Nature Nanotechnology」で最近発表した論文の中で、1つの原子に核磁気共鳴(NMR)を用いることにより、原子核の磁性を制御する手法について説明している。NMRは、分子の構造を判断するために不可欠なツールだが、Lutz氏とYang氏は今回、業界で初めて、走査型トンネル顕微鏡(STM)を使用してNMRを実現した。
Lutz氏は、EE Timesの電話インタビューの中で、「われわれはナノテクノロジー分野において、原子レベルで、究極的限界に適用するための基礎的な研究を行っている。今回初めて、走査型トンネル顕微鏡を使用したことにより、原子を観察して再配置することが可能な環境の中で達成することができた」と述べている。
研究者たちは今回、走査型トンネル顕微鏡を使用したことにより、原子から構造を形成して試験を行い、「スピン共鳴」技術を適用して、将来的に何を形成したいのかを把握できるようになった。
走査型トンネル顕微鏡を使用すれば、1つ1つの原子をイメージングして配置することにより、NMRが局所環境に対してどのように変化あるいは応答するのかを研究することが可能になる。走査型トンネル顕微鏡の金属探針の非常に鋭い先端を表面全体に走査させることによって、単一原子の形状を識別し、取り出したり移動させたりして希望通りの配置を実現することができる。
Lutz氏は、「われわれは、原子を一度に一つずつ探査した時に何が生じるのかを研究して、その磁気特性について検討している。まず、分子の磁気状態を識別してから制御することを学んだ」と述べる。
また同氏は、「2段階の手順を踏む。ただ単にランダム方向を指しているのではなく、最初に整列させる必要がある。そこから、金属探針の先端から生じる電波を当てて、分子の磁気を操作し、分子の固有振動数に対して、電波を正確に調整する」と述べている。
研究者たちは、鉄とチタン原子の核磁気を調査することから始めたが、導電性の高い銅に移った。銅は身近な金属ではあるが、その磁気特性は、実はあまり理解されていない。Lutz氏によれば、個々の銅原子は、他の銅原子が周辺に存在していない時に、磁気性が現れるという。「銅は、原子核と電子の間に非常に強い相互作用がある」とLutz氏は述べる。Lutz氏は、「次のステップは、磁性原子の配列を構築することだ」と続けた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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