量子ドットは次世代ディスプレイ向き、材料開発も進む:照明や通信でも高まる関心
NSマテリアルズは、「第28回 液晶・有機EL・センサ技術展(ファインテック ジャパン)」(2018年12月5〜7日、幕張メッセ)で、「量子ドットデバイスの現状と展望」と題した技術セミナーに登壇した。
NSマテリアルズは、「第28回 液晶・有機EL・センサ技術展(ファインテック ジャパン)」(2018年12月5〜7日、幕張メッセ)で、「量子ドットデバイスの現状と展望」と題した技術セミナーに登壇した。NSマテリアルズは、産業技術総合研究所から、精密化学合成などの技術移転によって2006年に設立されたハイテクスタートアップで、福岡県筑紫野市に本拠地を構える。セミナーに登壇したNSマテリアルズの執行役員 CTO(最高技術責任者)を務める宮永昭治氏によれば、現在は量子ドットに的を絞って合成を行っているという。
量子ドット(QD)は、自在な発光波長を持っていることが最大の特長だ。例えば、粒径8nmの量子ドットに青を吸収して緑を発光させたり、12nmの量子ドットに青を吸収して赤を発光させたりといった具合だ。「粒径だけ制御すれば、全ての色を生成できる」と宮永氏は語る。さらに、量子ドットは発光効率が高く、スペクトル半値幅が狭い、つまり色純度が高いことも特長である。
量子ドットのアプリケーションとして現在注目されているのが、次世代ディスプレイである。「社会的背景として、現場の臨場感や実物かんの再現を目指した次世代高精細ディスプレイが求められている。4K、8Kの他、ネットショッピング、ゲーム、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)、医療など、さまざまな分野で色再現性が高く、高画質のものが必要とされている」(宮永氏)
ディスプレイの画質を決める主な要素は、解像度、ビット深度、フレームレート、色域、輝度などがあるが、いかに特性のよいRGBの光を出力できるかが鍵となる。
宮永氏は、「スペクトル半値幅が狭く、発光効率が高く、蛍光寿命が短い(残像が残らない)。これを実現できるのが量子ドットだ」と述べ、量子ドットがディスプレイ向けとして適していることを強調した。「例えば、スペクトル半値幅には、材料によって大きな差がある。半値幅が狭いほど色純度が高いが、白色LEDは130nm、有機蛍光体は50〜150nm、量子ドットは20〜30nmである。白色LEDや有機蛍光体に比べて圧倒的に狭いことが分かる」(同氏)
現在、量子ドットをディスプレイに使う場合、LCD(液晶ディスプレイ)のバックライトに用いるというのが一般的だ。宮永氏は次の開発テーマとして、1)LCDのカラーフィルターとして量子ドットを使う、2)量子ドットを採用したLEDバックライトを用いる(QLED)、3)マイクロLEDの上に量子ドットを搭載する(QD-LED)、という3つを挙げた。宮永氏によれば、特に3つ目のQD-LEDに対する要求が高いという。「QD-LEDの実用化が最も早いかもしれない」(同氏)
宮永氏は、「バックライト用として開発したときには、量子ドットで最も重要なのは、ナノ粒子の分散技術だった。だが、カラーフィルターの代わりや、有機ELの代わりといった場合は、ナノ粒子を積層化したり、高濃度化したりという技術の方が、分散技術よりも重要になる」と述べ、研究開発で注力する方向が変わる可能性があることを示唆した。
照明や光通信への応用も
量子ドットは、ディスプレイ以外にも応用が検討されている。代表的なアプリケーションが照明だ。「量子ドットなら、粒径と吸収させる波長によって、さまざまな照明色を生成できる。それによって、優れた演色性を実現できるようになる。ここが最大の差異化ポイントになるだろう。大面積で安価に照明を製造できることも利点だ。数千円で実現可能な製品も登場するだろう。また、無機材料なので信頼性も高い」(宮永氏)
最も早く商品化が期待されているのは、植物工場や、農産物向け照明だ。「好きな色を作れるので、作物の成長促進、抑制ができる他、栄養素を増加させることも可能になるだろう」(宮永氏)
もう一つが光通信である。量子ドットをナノ光ファイバーの中で1個ずつ操作する技術を用いたもので、量子暗号通信の実現を目指し、電気通信大学の教授である白田耕藏氏と共同研究を行っているという。
量子ドットの課題は?
宮永氏は、量子ドットの課題として、量子ドット材料を挙げる。現在、特性のよい量子ドットは、カドミウムベースであることが多いという。「RoHS規制を考慮すると、カドミウムは使いたくない。インジウムベースの量子ドットもあるが、こちらは特性があまりよくない。そこで、われわれはRoHS規制物質フリーの新しい量子ドットを開発中だ。現在、それなりによい発光特性も得られている」(宮永氏)
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