“余計なもの”って何? 「Mate 20 Pro」の疑惑を晴らす:製品分解で探るアジアの新トレンド(34)(3/3 ページ)
Huaweiの2018年におけるフラグシップ機「Mate 20 Pro」。この機種には、“余計なもの”が搭載されているとのうわさもある。本当にそうなのだろうか。いつものように分解し、徹底的に検証してみた。
結局、“余計なもの”はあったのか?
全ての半導体チップが存在する領域を細かく、1個1個チェックを行ったが、「余計なもの」は全く存在しなかった。
“余計なもの”という言い方が適切かどうかは分からないが、余計なものを具体的に教えて欲しいくらいである。通信部には米国のパワーアンプが並ぶだけである。センサーはドイツ製、日本製ばかりだ。メモリは韓国製。ここに全てのチップを並べて見せたいくらいである(分量の都合でここでは掲載しないが、セミナーなどでは報告していく予定だ)。
ただし、中国製チップも多く使われている。図4に、それらのチップ群の一部を示す。右はスマートフォンの骨格となるチップセットで、HiSiliconのチップで構成される。内容はプロセッサ(図には未掲載)、電源制御IC、Wi-Fi/Bluetoothチップ、オーディオチップ、トランシーバーなどがHiSiliconのチップで構成されている。QualcommのチップセットやMediaTekのチップセットとほぼ同等の内容をカバーできている。これは、HiSiliconが抜きん出た技術を持つことの証しといえるだろう。
日本メーカーもおおよそ7年前までは、巨費を投じて同じものを目指してきた。だが、それらの技術は完成することなく、幕を閉じている。あれから通信は高速化し、プロセッサの処理量も劇的に増えた。
今、これと同じものを日本で作れるかどうか――。答えはここではあえて書かないが、技術者の多くは答えを知っていると思う。一部の日本人は、まだ、やればできると思っているようだが、開発の継続性が途切れて既に数年が経過している。技術や業界の競争が、それで追い付けるほど甘くはないのは、言わなくても分かるだろう。
Mate 20 Proの中身は、図4で示したように、骨格を成す部分こそHiSiliconの手によるものだが、半分は日欧米のチップだ。いずれも相互に絡み合っており、HiSiliconのチップだけではスマートフォンにはならないし、日米欧のチップだけでも完成しない。多くは相互依存で成り立っているのだ。
技術面ではお互いがリスペクトし合い、競争し合い、より良いものを作ることにいそしんでいると思えてならない。こうした素晴らしい技術が停滞しないことを望むばかりである。Mate 20 Proを隅から隅まで観察したが、“余計なもの”は一切存在しなかった、ということをあらためて強調しておく。むしろMate 20 Proは、研ぎ澄まされ、洗練された2018年最高のスマートフォンの一つであったと結論付けたい。
なお、2018年は「余計なもの」という情報が一体何を指すのか、それを観察して明らかにすべく、Supermicro(スーパーマイクロ)のサーバを数台買ったり、Huaweiのスマートフォンを急きょ、数台分解したりと、予定外の費用と労力を使ってしまった。
願わくは、2019年は「余計なもの」と言うからには、その「余計なもの」を具体的に示していただきたいものである。
その場合には弊社にて、通常は有償となるチップの開封と解析を、無償にて引き受けたい! “余計なもの”の正体を、ぜひとも見極めたいのである。
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