3G〜5Gまで対応可能に、三菱電機のGaN増幅器:1.4G〜4.8GHzで動作
三菱電機は2019年1月10日、5G(第5世代移動通信)を含め複数の周波数帯に1台で対応できる「超広帯域デジタル制御GaN(窒化ガリウム)増幅器」を開発したと発表した。1.4G〜4.8GHzという広帯域に対応していることと、三菱電機のAI(人工知能)技術を用いたデジタル制御で高い効率を実現していることが特長だ。
三菱電機は2019年1月10日、都内で記者説明会を開催し、5G(第5世代移動通信)を含め複数の周波数帯に1台で対応できる「超広帯域デジタル制御GaN(窒化ガリウム)増幅器(以下、GaN増幅器)」を開発したと発表した。1.4G〜4.8GHzという広帯域に対応していることと、三菱電機のAI(人工知能)技術を用いたデジタル制御で高い効率を実現していることが特長だ。5G向けなど次世代の基地局での利用を想定している。
現在、基地局で主に用いられているドハティ増幅器は、電力効率を上げるために負荷変調を用いているが、中心周波数から離れると、負荷変調が機能しないという課題がある。そのため、使用する周波数帯ごとに増幅器を搭載しなくてはならないのが現状だ。今回開発したGaN増幅器を使えば、現在のモバイルネットワークで主に使われている1.4G〜4.8GHz帯の電波に、1台で対応できるようになる。
GaN増幅器は、主に「GaN増幅部」と「デジタル制御部」の2つで構成されている。GaN増幅部には、2個のGaNトランジスタの出力部に、独自開発した負荷変調回路が集積されている。この回路によって、広帯域動作を実現したと三菱電機は説明する。三菱電機 情報技術総合研究所でマイクロ波技術部長を務める下沢充弘氏によれば、これだけ広い周波数帯をカバーしている増幅器は「他にない」という。
デジタル制御部には、三菱電機のAI技術「Maisart(マイサート)*)」による学習機能を搭載。GaN増幅部に入力する信号の大きさと位相を最適化することで、電力効率の高い負荷変調を実現するという。具体的には、GaN増幅部の入力信号と出力信号について、入力電力、出力電流、出力電力を測定してリアルタイムでデジタル制御部のMaisartにフィードバックする。これらのフィードバックを基にMaisartで機械学習を行い、入力信号を自動的に最適化する仕組みだ。同社が2017年1月に発表したGaN増幅器に比べて6倍となる、比帯域(帯域幅/周波数)110%で電力効率40%以上を達成したという。
*)Maisart:Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略
記者発表会で紹介した開発成果では、1.4G〜4.8GHzにおいて40〜60%の電力効率を実現していた。基地局で求められる電力効率は40%以上とされているので、最低限の効率は達成したことになる。
今回開発したGaN増幅器はあくまでも原理検証レベルで、三菱電機は2019年以降に、通信用変調波信号を用いた実証を行い、基地局向けに展開していく予定だ。
三菱電機 情報技術総合研究所 所長を務める中川路哲男氏によれば、GaN増幅器のビジネスモデルはまだ何も決まっておらず、オペレーターが顧客になる可能性もあれば、通信機器メーカーが顧客になる可能性もあるという。「既存の基地局に搭載されている増幅器を置き換えるというよりは、今後5Gが普及し、(スモールセルなどの)基地局が増設されて、基地局の設置スペースが少なくなってきたときに、3G〜5Gに対応できるよう基地局を一つにまとめたいというニーズは出てくるだろう。そうしたニーズを見据えて、今回のGaN増幅器を開発した」(同氏)
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