東工大、振動発電素子のエレクトレットを外付け:材料選択や設計の自由度を向上
東京工業大学(東工大)は、新原理の振動発電素子を東京大学と共同で開発し、発電することを確認した。開発した素子は、MEMS可変容量素子とエレクトレット層を個別に作製し、電気配線で接続する構造である。
MEMS可変容量素子とエレクトレット層を電気配線で接続
東京工業大学(東工大)科学技術創成研究院未来産業技術研究所の山根大輔助教(兼科学技術振興機構さきがけ研究者)は2019年1月、東京大学先端科学技術研究センターの年吉洋教授や本間浩章研究員と共同で、新原理の振動発電素子を開発し、発電することを確認したと発表した。開発した素子は、MEMS可変容量素子とエレクトレット層を個別に作製し、電気配線で接続する構造としたことによって、材料選択や製造を容易にした。
MEMS技術を応用した振動発電素子は、小型IoT(モノのインターネット)端末向け電源として注目を集めている。半永久的な電荷を保持する誘電体「エレクトレット」を用いたMEMS振動発電素子の特長は、他の方式に比べ低周波数かつ出力電力密度が大きいことである。
エレクトレット型MEMS振動発電素子の原理はこうだ。MEMS可変容量素子は外部振動による慣性力で可動電極が動く。MEMS部の静電容量とエレクトレット層下部の静電容量のバランスは、その振動に応じて変わる。各静電容量に蓄積される電荷量が変化することで誘導電荷が生じ、この誘導電荷を外部負荷で取り出すことによって発電を行う。
ところが、MEMS可変容量素子内部にエレクトレット層を形成していた従来のエレクトレット型MEMS振動発電素子は、構造設計や用いる材料などに多くの制約があった。例えば、製造工程で印加する高圧によって生じる「プルイン現象」などに対応するためである。
今回は、シリコンMEMS可変容量素子とAGC製エレクトレット「CYTOP」で成膜をしたシリコン基板を個別に用意し、この2つを電気配線で接続した。試作した素子を検証した結果、シリコンMEMS可変容量素子のみを振動させても誘導電荷は生じなかったが、エレクトレット成膜基板に接続したところ、誘導電荷による発電が確認できたという。
今回の成果について研究チームは、「MEMS構造とエレクトレット材料を個別に最適設計することが可能となり、各要素における最先端技術の融合を大幅に加速できる」とみている。
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