RISC-V、関心は高いが普及には障壁も:懸念点も(2/2 ページ)
RISC-Vは今や、SoC(Sytem on Chip)に深く組み込まれたコントローラーとしての足掛かりを確立するに至った。そこで次に、「このオープンソースのISA(命令セットアーキテクチャ)は、ホストプロセッサとして、Armやx86の代替へと大きく飛躍することができるのだろうか」という疑問が生じている。
商用OS向けのポートは存在しない
RISC-V Foundationは、Linuxのブートスペック「OpenSBI 0.1」の開発に着手したところだ。Linuxの他に、AndroidやWindowsをはじめとするさまざまな商用OS向けのポートは存在しないという。
やや懸念される点として、OSポートは、ソフトウェアという“氷山の一角”にすぎないということがある。
Jon Masters氏は、「OSポートは、ソフトウェアという氷山のほんの一角にすぎない」と警告する。同氏は過去9年間、Armサーバ向けのRed Hat Linuxの標準版の開発に取り組んできた。現在のところ、このRed Hat Linuxの動作を承認されたと発表している商用システムは、2つしかないという。
プロセスの中で、一連の低レベルの旧式ハードウェアを識別することにより、x86業界において、割り込みや電力設定がどのように機能するのかといったことが想定されている。このような業界の標準(デファクト・スタンダード)が、50ページを超える文書の中で明示され、その後Armアーキテクチャに適用されている。
別の取り組みでは、Linux/Windows全体のx86ブート規格が文書化され、Armコアに適用されている。BIOSや電力、マルチプロセッシング機能など、不透明ながらも重要な詳細について記されている。
Masters氏は、「RISC-Vのような新しい規格の登場に熱狂しすぎて、サポートに関する詳細を定義することなどの重大な問題を取りこぼしてしまわないか懸念している」と述べる。同氏は2011年から、Armサーバ向けLinuxの開発に携わってきた経歴を持つ。
また同氏は、「RISC-Vの支持者たちは、最初の数世代の間は、ArmでPCIを適切に採用することは不可能であると分かるだろう。PCIをx86以外のホストシステムで適切に使用することは、非常に難しい」と述べている。
Red Hatの新技術の専門家であるRichard Jones氏は、2018年に行われたRISC-V関連のイベントにおいて登壇し、「サーバ顧客は、WindowsとLinuxの両方のサポートを希望している。また、OS/カーネルのシングルイメージの他、数年間安定した状態を維持してきたABI(Application Binary Interface)を必要としている」と述べる。同氏は、FedoraのRISC-Vポートの開発に携わった経歴を持つ。
Debianの開発メーカーは最近行われたイベントの中で、「64ビットのDebianのブートストラップ版は、RISC-V向けとして利用することができるが、コードの新しいバージョン10では、アーキテクチャがネイティブサポートされない。RISC-Vは、LLVMコンパイラやJavaの他、GolangやRustなどの言語ではサポートされていない」と述べている。
Armは数年間にわたり、低レベルのサーバ向けソフトウェアや、電気通信、IoT(モノのインターネット)向けシステムなどの開発に取り組む非営利組織であるLinaroの形成を主導してきた。Linaroは、Armが幅広い分野に拡大していくための道のりをサポートしてきたが、数多くのメンバー企業に対し、開発に注力するためのエンジニアリング時間を必要としてきた。そのコストは、1億米ドルに達するとみられている。
Masters氏は、「メンバー企業には、RISC-Vに標準規格やLinaroのような組織が必要であるということを、理解してもらっている」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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