解像力200nmのX線イメージング検出器を開発:解像力の理論限界に迫る
高輝度光科学研究センター(JASRI)と理化学研究所、神島化学工業らの研究グループは、200nmの解像力を持つ「高解像度X線イメージング検出器」の開発に成功した。
産業用X線撮像装置への適用に期待
高輝度光科学研究センター(JASRI)と理化学研究所、神島化学工業らの研究グループは2019年3月、200nmの解像力を持つ「高解像度X線イメージング検出器」の開発に成功したことを発表した。半導体デバイスの微細な内部配線を非破壊で検査することが可能となる。
今回の研究成果は、JASRI計測技術開発チームの亀島敬研究員(理化学研究所放射光科学研究センターデータ処理系開発チーム客員研究員)、理化学研究所放射光科学研究センターデータ処理系開発チームの初井宇記チームリーダーおよび、神島化学工業セラミックグループの柳谷高公グループマネジャーと村松克洋チームリーダーらによるものである。
高い解像度のX線画像を得たい場合には、薄膜のシンチレーターでX線を可視光に変換したあと、レンズを用いて拡大し撮像をする手法が用いられている。ただし従来手法だと、X線によるイメージング検出の解像力は、約500nmが限界といわれてきた。
研究グループは、最新の透明セラミックス技術を用いて、膜厚が5μmで接合層の無い透明なシンチレーターを開発、光学特性を大きく改善した。透明セラミックスは空孔を除去し、結晶粒界を蛍光波長よりも十分に小さく抑えた。これにより、単結晶とほぼ同じ透明性を得ることができた。さらに、焼結現象を利用した固相拡散接合により直接接合を行い、これまでの課題であった光の散乱や反射の問題を解決した。
具体的な工程はこうだ。不純物Ceを添加しシンチレーターとして活性化したLu3Al5O12:Ce(LuAG:Ce)セラミックスと、支持基板のLu3Al5O12(LuAG)セラミックスを接合する。LuAG:Ceシンチレーター層は研磨して薄くすることもできる。LuAG:CeとLuAGは屈折率差が0.1%以下のため、接合面で光の反射はほとんど生じないという。仕上げは、基板両面に光学コーティングを行った。
上図は開発した薄膜シンチレーターの製法と、開発した透明LuAG:Ce/LuAG複合セラミックスの接合面付近の電子顕微鏡像。下図は開発した薄膜シンチレーターとX線イメージング検出器の写真 出典:JASRI他
開発した技術を用いて、200nmプロセスで製造された半導体デバイスの内部配線などについて撮像をした。この結果、最小線幅300nmのアルミ配線やタングステン貫通電極が埋め込まれていることを可視化することに成功したという。
今回開発した高い解像力を持つX線イメージング検出器は、産業用X線撮像装置への適用も可能である。微細加工技術を適用して製造された電子デバイスなどを、非破壊で容易に検査することができるという。
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