理研、室温付近で「電場による磁化制御」に成功:電圧制御磁気メモリに応用
理化学研究所(理研)は、マルチフェロイック物質である「六方晶鉄酸化物」の単結晶試料を合成し、室温付近で「電場による磁化制御」に成功した。
物質組成の最適化と高圧酸素アニーリングで実現
理化学研究所(理研)は2019年3月、マルチフェロイック物質である「六方晶鉄酸化物(Ba0.8Sr1.2Co2Fe11.1Al0.9O22)」の単結晶試料を合成し、室温付近で「電場による磁化制御」に成功したと発表した。電圧制御磁気メモリの実現につながる成果とみられている。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センター強相関物質研究グループのヴィルモシュ コーチス特別研究員と田口康二郎グループディレクターおよび、強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクターら国際共同研究グループによるものである。
自発磁化と自発電気分極を併せ持つマルチフェロイック物質は、「磁場による電気分極制御」や、「電場による磁化制御」が可能である。特に、「電場による磁化制御」技術は、消費電力が小さい磁気メモリデバイスへの応用が期待されている。
研究グループは今回、マルチフェロイック物質の中でもタイプIIに分類される「Ba0.8Sr1.2Co2Fe11.1Al0.9O22」の単結晶試料を合成した。この試料を10気圧の酸素雰囲気下でアニール、試料の絶縁性を大幅に向上させた。
また、FE3相と呼ばれる「マルチフェロイック相」を、室温よりも高い450K(177℃)まで安定化させることに成功した。この結果、従来は100K(−173℃)以下の極低温でしか実現できなかった「電場による磁化制御」を、室温付近の270K(−3℃)付近で行うことが可能となった。
合成した単結晶試料を用い、米国オークリッジ国立研究所で中性子散乱実験を行った。この結果、試料に一度も磁場をかけていない場合には、低温から450Kまでマルチフェロイック相(FE3相、FE2’相)が、自発電気分極を持たない交互縦コニカル相(ALC相)、ねじ型らせん磁性相(PS相)、フェリ磁性相(FiM相)と共存していることが分かった。300K(27℃)の室温で行った磁気力顕微鏡による観察でも、これらの磁気相が共存していることを確認できたという。
試料に磁場を加えた後にその磁場を取り除くと、交互縦コニカル相は消失してマルチフェロイック相に変わった。このマルチフェロイック相は、室温においても準安定状態でほぼ残存することが明らかとなった。
研究グループは、試料の電気磁気特性も調べた。これによると、「磁場による分極制御」と「電場による磁化制御」が270Kあるいは、これ以下の温度領域で可能になることが分かった。電場パルスを用いて、電気分極と磁化が変化する状況についても同時に測定した。この結果、270K付近でも両者の結合は保たれていることを確認した。
さらに磁気力顕微鏡を用い、室温で電場を印加した前後の磁気ドメインを観察した。これにより、ドメイン構造の詳細が明らかとなった。また、電場を印加することによってドメイン壁が移動し、磁化の変化が生じていることも実証された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 理研ら、シリコン量子ビットの高温動作に成功
理化学研究所(理研)や産業技術総合研究所(産総研)らの共同研究グループは2019年1月、シリコン量子ビットを最高温度10K(約−263℃)で動作させることに成功した。 - 外部磁場がなくても磁気渦を生成、理研らが発見
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、磁気渦の新しい生成機構を発見した。磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現につながる研究成果と期待されている。 - 長期間、皮膚に貼り付けて心電計測が可能に
理化学研究所(理研)は、極めて薄い有機太陽電池で駆動する「皮膚貼り付け型の心電計測デバイス」を開発した。 - 正データと正信頼度の情報だけで分類境界を学習
理化学研究所(理研)の研究チームは、人工知能(AI)を用いた機械学習の分類問題で、正のデータとその信頼度(正信頼度)情報だけで、分類境界を学習できる手法を開発した。 - 量子ビットの高精度制御と高速読み出しを両立
理化学研究所(理研)らの国際共同研究グループは、高精度制御に適した「スピン1/2量子ビット」と高速読み出しに適した「ST量子ビット」を結合させ、両方式の互換性を確保することに成功した。 - U(1)量子スピン液体の状態、より高温で出現
理化学研究所(理研)と金沢大学の共同研究チームは、スピネル化合物「Ir2O4」の電子状態を第一原理計算で理論解析したところ、単極子(モノポール)が粒子のように振る舞う「U(1)量子スピン液体」の状態が、従来に比べて高温で出現することを発見した。