ミニマルファブ方式で、宇宙用集積回路を試作:2層アルミ配線プロセスを適用
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と産業技術総合研究所(産総研)は、半導体チップの少量生産に適したシステム「ミニマルファブ」を用いて、宇宙機搭載用の集積回路を試作し、その動作実証に成功した。
全自動で動作、回路設計者1人でデバイスを製造
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と産業技術総合研究所(産総研)は2019年5月、半導体チップの少量生産に適したシステム「ミニマルファブ」を用いて、宇宙機搭載用の集積回路を試作、その動作実証に成功したことを発表した。
ミニマルファブは、直径0.5インチ(12.5mm)のウエハーを用いて、半導体チップを短期間で製造することが可能なシステムである。局所クリーン化生産システムにより、スペースや設備環境、投資額に制限がある研究室などでも比較的容易に導入できる。
ミニマルファブ対応の製造装置は、既に商用販売されているが、これまで製造実績があるのは単体トランジスターや小規模の発振回路などにとどまっていた。そこでJAXAと産総研は、宇宙機に搭載する半導体チップの製造に向けて共同研究を行ってきた。
産総研は、これまで蓄積してきた製造技術に加え、フルミニマルSOI-CMOS 2層アルミ配線プロセスを新たに開発した。「Technology 2018」と呼ぶこの技術は、プロセスに必要な技術情報と一連の動作手順が全て電子化されているという。このため、作業者(設計者)はプロセス情報を知らなくても、スタートボタンを1回押すだけで半導体チップを製造することができる。
JAXAは、まずNANDゲートを設計、試作してその動作に成功した。続いて1000トランジスター規模の4ビットシフトレジスターおよび、I/O回路を設計した。これをTechnology 2018技術で製造し、正常に動作することを確認した。特に、耐放射線集積回路が製造可能かどうかを確認するため、4ビットシフトレジスターのDフリップフロップはクロックゲートタイプにしたという。
今回の成果により、宇宙機向け集積回路の製造においてミニマルファブ方式が有用性であることを確認した。今後は宇宙用半導体チップの実用化に向けた検討を行う。さらに、IoT(モノのインターネット)向けデバイス製造におけるミニマルファブ方式の応用などを展開する考えだ。
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