産総研、5G用FPC向け高強度異種材料接合技術開発:平滑な銅箔とポリマー膜を接合
産業技術総合研究所(産総研)と新技術研究所は共同で、5G(第5世代移動通信)用の低損失基板に向けた「高強度異種材料接合技術」を開発した。
紫外光による表面化学修飾ナノコーティング技術を活用
産業技術総合研究所(産総研)先進コーティング技術研究センター光反応コーティング研究チームの中村挙子上級主任研究員と同研究センターの土屋哲男副研究センター長らによる研究グループは2019年3月、5G(第5世代移動通信)用の低損失基板に向けた「高強度異種材料接合技術」を、新技術研究所と共同で開発したと発表した。
産総研は、紫外光などによる表面化学修飾技術を用いて、カーボン系やポリマー材料表面への各種官能基導入技術の開発などに取り組んでいる。一方、新技術研究所は金属の化学的表面処理技術をベースに、これまで十分な接合や接着の強度が得られなかった材料同士を、接着剤フリーで強固に接着できる技術の開発に力を入れる。
今回は、産総研が開発してきた紫外光による表面化学修飾ナノコーティング技術を活用し、高周波用フレキシブルプリント配線板(FPC)を作製するための異種材料接合技術を共同で開発した。
FPCは、ポリイミド膜やポリエステル膜といったポリマー膜を絶縁層に、銅材料を配線層にそれぞれ用い、これらを接合するのが一般的である。基板の信頼性を高めるには、これらの接合力を高める必要がある。
例えばFCCL(Flexible Copper Clad Laminate)は、アンカー効果と呼ばれる方法で接合力を高めた基材の1つである。ところが、この接合方法だと銅箔(はく)表面に凹凸があり、高周波信号を伝送する場合には損失が大きかった。表面処理剤を用いて平滑性を高める方法も開発されているが、これまでの方法だと接合強度にばらつきが生じるなど課題もあった。
産総研らの研究グループは今回、紫外光照射による化学ナノコーティング技術を応用して、ポリエステル膜表面に酸素官能基を導入した。さらに、接合前後のポリマー膜と銅箔の表面を分析し、接合機構を解析することで銅箔と反応性の高い表面化学構造を開発した。
開発した化学ナノコーティング法は、簡便な装置で効率よく酸素官能基を導入することができる。酸化剤の使用量も少なくて済み、表面改質特性の持続時間が長い、といった特長がある。また、酸素官能基化したポリエステル膜と銅箔をヒートプレスすると、ポリエステル膜表面に多数存在する酸素官能基と銅が化学反応により強固に結合する。このため、接着剤を用いなくても高い強度の接合を実現できるという。接合の強さを示す剥離強度を測定したところ、JPCA規格で0.7N/mm以上という開発目標値を上回った。
研究グループは今後、高周波特性に優れた5G用FPCの実用化に向け、環境負荷が小さく量産性に優れた製造プロセスを開発する計画である。また、開発した表面化学修飾ナノコーティング技術については、さまざまな異種材料接合技術や高い表面撥水、親水化技術への応用を進める方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 産総研、簡単な工程でCNT透明導電膜を作製
産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは2019年1月、簡単な工程で高い導電率と耐久性を有するカーボンナノチューブ(CNT)透明導電膜の作製方法を開発した。 - 産総研、産業廃水に含まれたCNTを簡便に除去
産業技術総合研究所(産総研)は、次亜塩素酸化合物(NaClO)を用いてカーボンナノチューブ(CNT)を含む産業廃水から、CNTを簡便に除去する方法を開発した。 - 産総研、170GHzまで材料の誘電率を高精度に計測
産業技術総合研究所(産総研)は、10G〜170GHzの広帯域にわたって、エレクトロニクス材料の誘電率を高い精度で測定できる技術を開発した。 - 金属型/半導体型CNTの分離メカニズムを解明
産業技術総合研究所(産総研)は、金属型と半導体型のカーボンナノチューブ(CNT)を分離するための電界誘起層形成法(ELF法)について、そのメカニズムを解明した。 - 既存装置で、厚み5μmのセンサーを切り離し可能
東京大学と産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、半導体工場にある既存の製造装置を用いて、極めて薄い半導体ひずみセンサーチップを基板から個別に切り離し、電子回路上に実装する技術を開発した。 - 高湿度の生活空間でも、ニオイガスなどを識別
産業技術総合研究所(産総研)は、「nano tech 2019」で、生活空間に存在するさまざまなニオイを識別できるセンサーアレイのデモ展示を行った。車室内や一般住宅などでの活用が容易だという。