Cu/LASGTP界面のイオンの空間電荷層を初観察:全固体電池の高効率、長寿命化へ
ファインセラミックスセンター(JFCC)と名古屋大学は、金属電極とリチウム(Li)イオン伝導性固体電解質の界面に形成される「イオンの空間電荷層」を観察することに初めて成功した。
新開発の「Nano-Shield技術」などを組み合わせて実現
ファインセラミックスセンター(JFCC)と名古屋大学は2019年5月、金属電極とリチウム(Li)イオン伝導性固体電解質の界面に形成される「イオンの空間電荷層」を観察することに初めて成功したと発表した。今回、電子線ホログラフィー技術と位置分解電子エネルギー損失分光法などを用いて可視化した。
Liイオン伝導性固体電解質は、全固体Liイオン電池の電解質として不可欠な材料である。全固体電池の性能を高めていくには、電極と固体電解質の界面で生じている電気化学反応を観察し、電気的特性を正確に評価した上で、それを制御する必要がある。今回は、接合界面に形成されるイオンの空間電荷層をナノスケールで直接観察することに取り組んだ。
金属/半導体界面には電子(負電荷)または正孔(正電荷)が滞留、金属/固体電解質界面近傍にはLiイオン(正電荷)が滞留するかLi空孔(負電荷)が形成される (クリックで拡大) 出典:JFCC、名古屋大学
研究グループは今回、高い精度と分解能を実現した電子線ホログラフィー技術、位置分解電子エネルギー損失分光技術および、新たに開発した電子顕微鏡用試料作製(Nano-Shield)技術を組み合わせて実験を行った。
実験では、厚みが50μmというLASGTP固体電解質シートの両面に、それぞれ250nmの厚みでCuのスパッタ成膜をした。これを集束イオンビーム装置で薄片化し、断面観察用のTEM試料を作製した。このTEM試料全体に絶縁体の非結晶アルミナ(Al2O3)を20nm厚でコーティング。その上に導体の非結晶カーボン(C)を10nm厚でコーティングした。このカーボン導電膜を接地することで試料内部に電場を閉じ込め、試料の帯電や外部に漏れ出る電場の影響を99%抑制できたという。
こうしたNano-Shield技術によって、金属電極(Cu)/固体電解質(LASGTP)の界面を、ナノメートルスケールでシャープに観察することができた。
位相シフト電子線ホログラフィーを用い、Cu/LASGTPの界面近傍での電位分布を観察したところ、Cuとの界面近傍で電位が高くなっていることが分かった。また、界面近傍10nmの領域で急峻(きゅうしゅん)な電位の変化を観測できた。電位差は1.3Vであった。
Cu/LASGTPの界面領域におけるLi濃度分布を、位置分解電子エネルギー損失分光法で直接観察した。この結果、Cu電極に近い領域で、Liの信号が強くなっていた。Cuとの界面近傍(13nm以内)では、高い濃度のLiが局所的に滞留していることを初めて確認できたという。
左図が電子線ホログラフィーで計測したCu/LASGTP界面の電位分布、右図は位置分解電子エネルギー損失分光法で計測したCu/LASGTP界面のLi濃度分布 (クリックで拡大) 出典:JFCC、名古屋大学
これらの観察結果から、Cu/LASGTP界面ではLASGTP内のバンド構造が湾曲し、約10nmの領域で1.3Vの電位変化が生じていることが分かった。つまり、界面近傍にLiが滞留することで、Liイオンの空間電荷層が形成されていることを直接確認した。
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