NIMS、GaNに注入したMgの分布などを可視化:最適なMg注入条件探索が容易に
物質・材料研究機構(NIMS)は、窒化ガリウム(GaN)に注入したマグネシウム(Mg)の分布と電気的状態を、ナノスケールで可視化することに成功した。高性能GaNパワーデバイスの開発を加速できるとみている。
p型GaN半導体形成のメカニズムも一部解明
物質・材料研究機構(NIMS)は2019年5月、窒化ガリウム(GaN)に注入したマグネシウム(Mg)の分布と電気的状態をナノスケールで可視化することに成功したと発表した。高い性能のGaNパワーデバイス開発を加速できるとみている。
今回の研究成果は、NIMS技術開発・共用部門窒化ガリウム評価基盤領域CL/EBIC/アトムプローブグループの大久保忠勝グループリーダーと陳君主任研究員および、富士電機技術開発本部先端技術研究所材料基礎技術研究センターの江戸雅晴先端材料技術研究部長らによるものである。
GaNパワーデバイスを実現するには、n型とp型のGaN半導体を作製する必要がある。特にp型GaN半導体は、GaNウエハー上にMgイオンを注入し熱処理することで作り込む。この時、添加するMgの濃度や熱処理の条件などによって、Mgの分布や電気的な振る舞いが異なる。ところが、これまではこれらの試料をナノスケールレベルで可視化し評価する方法がなく、p型が形成されるメカニズムも明らかにされていなかった。
研究グループは今回、カソードルミネッセンス(CL:発光分布)評価法を用いて、Mgイオンを注入した試料の特性評価を行った。試料は日本電子製の断面試料作製装置を用いて斜め研磨した。試料を斜めに研磨したことで、断面試料に比べ2桁以上の位置精度で発光現象を観測できるという。また、CL観察を低温(80K)かつ低加速電圧(3kV)で行うことにより、深さ分解能を約100nmまで高めた。
実験では、濃度1×1019cm‐3でMgイオンを注入し、1300℃で熱処理したGaNウエハーを斜め研磨し、DAP発光のCL像を観察した。この結果、Mg注入層からのDAP発光は弱く、その真下には明るい発光領域がある一方で、転位が多い場合にはn‐GaNエピ層中にまで発光が広がり、Mgが転位に沿って拡散していることが分かった。
紫外光レーザーを用いたアトムプローブトモグラフィー(APT)による測定では、半導体や絶縁体に含まれる微量添加元素の分布を3次元的に可視化することができる。これを用いてMg元素の分布を解析した。
この結果、Mg注入量が1×1018cm-3と少ない場合は、欠陥に起因する明るいコントラストをSTEM像で確認できた。APT解析結果から、MgがGaN中に、均一に固溶をしていることが分かった。Mg注入量が1×1019cm‐3に増えると、微細な円盤状の欠陥やループ状の欠陥を確認でき、これらの欠陥にはMgが偏析をすることが分かった。
研究グループは、Mg注入条件の最適化を実現するため、欠陥形成とMg偏析の関連性について、引き続き研究を行うことにしている。また、次世代半導体の開発に、今回の研究成果を適用していく予定である。
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