東京大学、従来比2桁小さい電流密度で磁化反転:強磁性半導体単層極薄膜を作製
東京大学は、強磁性半導体単層極薄膜に小さい電流を流すだけで、磁化の向きが反転する現象を発見した。
高い品質の単結晶物質で、スピンの散乱も少ない
東京大学大学院工学系研究科のJiang Miao大学院生と大矢忍准教授、田中雅明教授のグループは2019年6月、強磁性半導体単層極薄膜に小さい電流を流すだけで、磁化の向きが反転する現象を発見したと発表した。磁化反転に必要な電流密度は、従来に比べ2桁小さいという。
研究グループは、半導体ガリウムヒ素(GaAs)にマンガン原子を数%加えた強磁性半導体「GaMnAs」で、膜厚7nmの極薄膜を作製した。この薄膜に、電流密度が3.4×105A/cm2の電流を流すだけで、N極とS極が反転する現象を発見した。
強磁性半導体GaMnAsの物質内には、比較的大きなスピン軌道相互作用があることが知られている。研究グループは、これが低電流密度での磁化反転を可能にしたとみている。また、今回の実験では分子線エピタキシー法により、原子レベルの平たんな薄膜を形成した。高品質な単結晶を実現したことで、電流が流れるときもスピンの散乱は少ないという。このことも、低い電流密度で磁化反転を可能にした要因の1つと推測している。
さらに、スピン軌道相互作用を十分に生かすためには物質の電子構造も重要だという。今回の研究で、大きな波数をもつ電子(または正孔)が伝導に寄与している必要があることも分かった。GaMnAsでは、波数の大きな正孔が集まるエネルギー帯を電流が流れることで、効率的な電流誘起磁化反転を引き起こしたと判断している。
省エネルギーの観点から、磁化反転を応用したデバイスの研究が進んでいる。ところが、これまで用いてきた磁化反転の方法だと、磁化反転に必要な電流密度は約107A/cm2で、大きな電力消費が実用化に向けた課題であった。
今回の研究に用いた材料は強磁性転移温度が低く、約40Kの低温で実験を行ったが、本質的な問題ではないという。室温で強磁性を示し、内部に大きなスピン軌道相互作用と大きな波数を持つ電子が存在すれば、室温でもほぼ同じ効果が得られるとみている。
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