東大ら、ナノチューブで巨大な光起電力効果発見:物質の対称性に強く依存
東京大学らの共同研究グループは、二硫化タングステンナノチューブにおいて、バルク光起電力効果(BPVE)が大幅に増幅されることを発見した。
太陽電池の発電効率、理論限界を超える
東京大学らの共同研究グループは2019年6月、二硫化タングステン(WS2)ナノチューブにおいて、バルク光起電力効果(BPVE:Bulk photovoltaic effect)が大幅に増幅されることを発見したと発表した。発電効率が限界に達しつつある太陽電池向けの新材料として注目を集める。
今回の成果は、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の岩佐義宏教授らと大阪大学産業科学研究所量子システム創成研究分野の張奕勁学振特別研究員(現マックスプランク固体研究所研究員)の研究グループが、マックスプランク固体研究所のJurgen Smetグループリーダー、ホロン工科大学のAlla Zak教授および、ワイツマン科学研究所のReshef Tenne教授らと共同で行った研究によるものである。
光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、p-n接合などの界面で発生する「光起電力効果」を応用している。ところが、この動作原理だと、単一素子の変換効率は最大30%が限界といわれており、ほぼその値に近づいてきた。
こうした中で注目を集めているのがBPVEである。界面による電位差を用いた従来の発電機構ではなく、結晶構造対称性を制御することで発生する光起電力を用いる。この発電原理だと理論限界の影響を受けないという。BPVEは強誘電体BaTiO3などで半世紀以上も前から知られているが、物質自体の変換効率が極めて小さく、これまでBPVEを用いた太陽電池は実用化されてこなかった。
研究グループは今回、遷移金属カルコゲナイドの一つであるWS2に着目した。実験では、二層WS2、単層WS2および、WS2ナノチューブを用いたナノデバイスを作製した。このデバイスを用い、対称性を低くしていくと光起電力効果がどのように変化するかを調べた。
具体的には、光学顕微鏡の下に被測定物を置き、集光後のHe‐Neレーザー光をデバイス中央に照射し、電気応答を観測した。この結果、WS2ナノチューブのみが有意な光起電力効果を示した。また、レーザー光の照射位置を移動させたところ、ナノチューブの中央付近にレーザー光があると短絡電流は大きくなり、電極側に近づくと減衰していくことも分かった。
実験において、WS2ナノチューブは光起電力効果を観測できたが、単層WS2では観測できなかったという。研究グループは、「光起電力効果が物質の対称性に強く依存していることを示したもので、極めて重要な結果」と話す。つまり、同じ物質でもナノ領域の構造制御を行うことで対称性制御し、新たな機能性を創出できることが分かった。ヘテロ接合や超格子の構築など、構造制御が可能な2次元物質でBPVEが出現する可能性があるとみている。
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