産業用ラズパイ+センサーが製造現場の自動化を加速:ハーティング(3/3 ページ)
産業用途で利用できる「Raspberry Pi(ラズパイ)」を手掛けるハーティング。代表取締役の能方研爾(のうがた・けんじ)氏に、産業用ラズパイの市場動向や同社の戦略などについて聞いた。
オープンな製品を使うビジネスは難しい
EETJ 産業用ラズパイを扱うビジネスについて、少し伺いたいのですが。
能方氏 正直に話すなら、ラズパイのようなオープンな製品を使うビジネスはリスキーでは、ある。“産業用ラズパイ”といっても、要はラズパイを防水ケースなどに搭載し、周辺をカスタマイズしているだけなので、誰でもできる。実際、今は、日本で産業用ラズパイを手掛けているところは少ないが、欧州ではHilscher(ヒルシャー)などチラホラ出ている。逆に言えば、大手メーカーにとっては、囲い込みができないので戦略を立てにくいビジネスでもある。ラズパイやArduinoのような製品でビジネスをするというのは、非常に難しいことだと感じている。
EETJ それでも手掛けているということは、勝機があるということでしょうか。
能方氏 勝機があるかどうかは、実はまだ全然分からない。われわれがこのビジネスを行っている理由は、オープン技術のアイデア提供と実装において、日本で貢献できると考えているからだ。
ラズパイのようなオープンな世界では、アプリケーション(例えばカメラで人物を検知したり、QRコードを読み取ったりといった)の実行に適した最新エンジンを見つけ出すのが意外と難しい。エンジンを含め、アプリケーション関連の情報は世界中のラズパイユーザーが常に発信し、膨大な量が公開されているが、基本的にそれらは全て英語で書かれている。そこで、われわれの出番だ。
われわれは日々、そうした情報をチェックし、時には自分たちで実際に試してノウハウを蓄積している。とりわけ、FAのコネクターで培った、自動車、ロボット、工作機械などを手掛ける顧客とは直接議論できる機会を持てるので、要望を聞いて、われわれが最新のソフトウェアを見つけ、ラズパイに実装し、場合によってはセンサーなども搭載してトータルソリューションを開発することができる。このようなことができるメーカーは、当社以外では少ないだろう。
とはいえ、裾野を広げていく必要はあるので、ベンチャー企業やディストリビューターへの供給も増やしていこうと考えている。
ハーティングの産業用ラズパイと組み合わせることができる周辺機器の一例。Pixyのイメージセンサー(物体の色を判別する) (写真左下)や、モーターに接続する振動センサー(写真左上)、USBスピーカー(写真右下)などがある(クリックで拡大)
EETJ 産業用ラズパイを日本で広めるに当たり、障害になりそうなことはありますか。
能方氏 ラズパイをアプリケーションで使うためのインテグレーションをする部分が、まだまだ弱いと感じている。ただ、そういう意味では、「オープン」にしても「ラズパイ」にしても、キーワードは全て日本の弱いところ。プログラミング言語一つ取っても、日本ではPythonを書ける人が少ない。ラズパイも、ホビー用途のユーザーの間では知名度が高いが、製造業の制御担当者の間では認知度は低い。欧州などの方が、話はすぐに通じる。
一方で、エンドユーザーやインターネットからアイデアを得て、ソリューションとして統合していくなど、オープン環境のビジネスはこれまでとはパラダイムが違うと感じている。こういう文化はFAの世界ではなかった。前例がないので、その辺りは面白いと思っている。
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