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「対韓輸出規制」、電子機器メーカーの怒りの矛先は日本に向く?湯之上隆のナノフォーカス(15)(4/4 ページ)

フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3材料について、韓国への輸出規制を発動した日本政府。だがこの措置によって、日本政府は「墓穴を掘った」としか思えない。場合によっては、世界の電子機器メーカーやクラウドメーカーの怒りの矛先が日本に向く可能性もあるのだ。

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日本製のフッ酸を代替できないのか?

 冒頭で、韓国が輸入しているフッ酸の日本比率は41.9%であることを紹介した。残りは、中国からが約45%、台湾から約10%を輸入している。日本からのフッ酸の調達が途絶えたら、中国製または台湾製に切り替えればいいのではないかという意見もあるだろう。

 しかし、コトはそう簡単には運ばない。まず、中国や台湾の材料メーカーが、1〜2カ月の短期間に供給量を2倍に増やすことが難しい。次に、各社の各工場の全ての工程ごとに、フッ酸の混合比などが厳密に決められているため、中国や台湾の材料メーカーが直ちに、その仕様のフッ酸を供給することが困難である。

 やみくもに、「フッ酸なら何でもいいから持ってこい」という乱暴なことを行うと、ただでさえ製造が困難になっている先端ロジック、DRAM、3次元NANDの歩留りが急落することになるだろう。フッ酸を使う工程が多いため、最悪の場合は、1個も良品が取れないという事態も考えられる。

 従って、ボリュームと要求仕様などの問題から、日本製のフッ酸をすぐに代替することはできない。しかし、1〜2年もあれば、日本製のフッ酸が無くても、中国製や台湾製のフッ酸で、各種の半導体が製造できるようになるかもしれない。

結局、日本政府は墓穴を掘った

 韓国政府は7月3日、半導体材料や装置の国産化支援に毎年1兆ウオン(約930億円)の予算を充てる構想を発表した(日経新聞7月4日)。日本製の材料が当てにできない事態からすると、当然の政策であると言える。そして、それはどのようなことを引き起こすか?

 韓国がトップシェアを誇る半導体メモリや有機ELの製造に必要な材料および装置について、可及的速やかに日本製を排除していくことになるだろう。そして、日本のレジスト、薬液、スラリー、ウエハーなどの材料や、東京エレクトロン、SCREEN、ディスコなどの製造装置が、代替可能品が開発できた端から、排除されていくことになる。

 その段階で、1980年代に日本が約80%の世界シェアを占めていたDRAMにおいて、韓国企業が日本の技術者を片っ端からヘッドハントして行ったということが、再び繰り返されるだろう。

 最終的に、日本の材料メーカーも装置メーカーも、Samsung、SK Hynix、LG Electronicsとのビッグビジネスを失うことになる。単にビジネスを失うだけではない。材料や装置メーカーは、トップランナーについていくことによって、競争力を高め、ビジネスを拡大してきたのである。その貴重な機会が一挙に失われることになる。

 このような事態になってから輸出規制を解除しても、もはや手遅れである。一度壊れた信頼関係は、二度と元には戻らない。要するに、日本政府は墓穴を掘ったのだ。その代償は、あまりにも大きい。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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