非立方晶系セラミックスでレーザー発振に初成功:結晶粒径を光波長の10分の1に
北見工業大学、物質・材料研究機構(NIMS)、東京医科歯科大学の共同研究チームは、非立方晶系材料を用いた透光性セラミックスで、レーザー発振に成功した。
粉体工学、粉末冶金学、レーザー工学の専門家が協力
北見工業大学の古瀬裕章准教授と物質・材料研究機構(NIMS)の金炳男グループリーダーおよび、東京医科歯科大学の堀内尚紘助教らによる共同研究チームは2019年7月、非立方晶系材料を用いた透光性セラミックスで、レーザー発振に成功したと発表した。
透光性セラミックスは、レーザー材料以外でも、蛍光体やシンチレーターなど、さまざまな分野での応用が期待されている。ところがこの母材は、これまで立方晶系材料に限られ、非立方晶系材料は単結晶のみが用いられてきた。多結晶だと複屈折により粒界散乱(Mie散乱)の影響を受けて、レーザー品質の光学特性が得られないためだという。
結晶粒の大きさをできる限り小さくすることができれば、粒界での散乱を抑えられることが分かっている。多くの研究者が、サファイア(Al2O3)やアパタイトといった非立方晶系材料を用いて、散乱源を取り除く研究を行っているが、まだレーザー発振まで至っていないという。
そこで研究チームは、「粉体工学」や「粉末冶金学」「レーザー光学」の各専門家が協力。材料にフッ化アパタイトを選び、課題解決に取り組んだ。まず、透光性セラミックスを得るのに適した初期粉体の液相合成を行い、東京医科歯科大学で、粒子径が50nmの球状粒子を合成した。レーザー波長の約10分の1と極めて小さい結晶粒径にすることで、粒界散乱を低減したという。
次に、この粉体をNIMSで焼結をし緻密透明化した。今回は比較的低温でも緻密化が容易な「放電プラズマ焼結法」を用いた。焼結挙動を高度に制御することで、平均粒径がわずか140nmの微細組織を実現。散乱源が極めて少ないセラミックスの作製に成功した。
北見工業大学は、作製した非立方晶系セラミックスを用いてレーザー発振に成功し、レーザー発振出力やスペクトルの評価を行った。吸収パワーに対するレーザー出力効率は約6.5%となった。
今回の研究成果により、非立方晶系セラミックスによるレーザー発振を実証し、新たな材料開発の可能性を示した。特に、長波長領域では、粒界散乱がさらに小さくなるため、中赤外レーザー材料としての展開が期待できるとみている。今回用いたフッ化アパタイトについても、粉体合成や焼結条件などの改善に取り組み、単結晶並みのレーザー品質を目指す計画である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- NIMS、GaNに注入したMgの分布などを可視化
物質・材料研究機構(NIMS)は、窒化ガリウム(GaN)に注入したマグネシウム(Mg)の分布と電気的状態を、ナノスケールで可視化することに成功した。高性能GaNパワーデバイスの開発を加速できるとみている。 - 強磁性体合金の熱電性能、スピン揺らぎで向上
物質・材料研究機構(NIMS)は日立製作所と協力し、強磁性体の合金で熱電性能が向上することを発見した。 - 蓄電デバイスの開発を加速、MIつくばを事業支援
CYBERDYNEと筑波銀行は、物質・材料研究機構(NIMS)が認定するベンチャー企業のマテリアルイノベーションつくば(MIつくば)に対して、資本出資と事業支援を共同で行う。 - 電子スピン情報を増幅する新たなナノ構造を開発
北海道大学の研究グループらは、半導体光デバイスにおいて、電子のスピン情報を増幅してそのまま一定の値を保つことができる新しいナノ構造を開発した。 - BLE機能も内蔵したマウスピース型センサー
東京医科歯科大学は、「SEMICON Japan 2018」で、歯科医療用のマウスピースに、口腔温や咬合力を測定するセンサーやBLE(Bluetooth Low Energy)無線機能を組み込んだウェアラブルセンサーを紹介した。 - NIMS、単結晶ダイヤモンドMEMSチップを開発
物質・材料研究機構(NIMS)は、室温における品質因子(Q値)が100万以上と極めて高い「ダイヤモンドカンチレバー」を開発した。カンチレバー上に振動をセンシングする電子回路などを集積した単結晶ダイヤモンドMEMSセンサーチップの開発にも成功した。