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九大、有機膜の厚みが従来比10倍の有機ELを開発:安価に、再現性良く作製が可能に
九州大学は、厚みが従来の10倍以上でありながら、外部量子効率を最大40%に高めた有機ELを開発した。
有機発光層を金属ハライドペロブスカイト層で挟む
九州大学の松島敏則准教授と安達千波矢教授らによる研究グループは2019年7月、厚みが従来の10倍以上でありながら、外部量子効率を最大40%に高めた有機ELを開発したと発表した。安価で再現性に優れた有機EL製品を製造することが可能となる。
有機ELは既に、ディスプレイや照明などの用途で実用化が進む。ただ、有機分子は電気が流れにくい特性があるため、これまでは有機膜の膜厚を約100nmと極めて薄くする必要があった。このため、面積が広くなると均一に成膜を行うことが難しかった。
研究グループは今回、電気を流しやすくするため透明な金属ハライドペロブスカイト層で有機発光層を挟んだ、新しい構造の有機ELを開発した。有機発光層には、発光効率の高いイリジウム化合物や熱活性化遅延蛍光化合物を採用している。有機EL内部のペロブスカイト総膜厚は2000nmである。ペロブスカイト層の膜厚を調整すると、発光スペクトルの角度依存性を完全になくすことができ、ディスプレイを斜めから見ても色味が変化しないという。
これまで有機ELの基本構造として、「薄い有機膜を用いる」のが定説となっていた。今回は、発光機能を有機分子に、電流を流す機能をペロブスカイトに、それぞれ分担することで、これまでの概念を覆した。
研究成果を用いると、従来の有機ELに比べて厚みを10倍以上にできる。その上、外部量子効率も最大40%を実現した。一般的な構造の有機ELだと、外部量子効率は20〜30%であり、大幅に改善できることが分かった。
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