九大、励起子生成効率が100%以上のOLED開発:高強度近赤外OLEDを実現可能に
九州大学の研究グループは2018年7月、励起子生成効率を100%以上に高めることができる有機EL素子の開発に成功したと発表した。
九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センターの中野谷一准教授、永田亮工学府博士課程学生、安達千波矢センター長らの研究グループは2018年7月、励起子生成効率を100%以上に高めることができる有機EL素子(OLED:Organic Light Emitting Diode)の開発に成功したと発表した。センサーや通信用の光源に用いるOLEDの高輝度、高強度化が可能となる。
OLEDは、電荷再結合によって生成される励起子のエネルギーを発光として利用する。励起子はスピン多重度の違いにより、「一重項励起子」と「三重項励起子」が存在し、OLEDはこれらが1対3の割合で生成されるという。生成された励起子の中で、EL発光として利用できる割合を励起子生成効率と呼ぶ。これまでの研究で、ほぼ100%の励起子生成効率が達成され、理論限界値とみられてきた。
「一重項励起子開裂」過程に着目
研究グループは今回、この理論限界値を突破するため、1つの一重項励起子が基底状態にある分子と相互作用することで、2つの三重項励起子が生成される「一重項励起子開裂(singlet fission)」過程に着目した。有機光電変換素子の研究ではこの電子遷移過程を利用して、既に100%を超える光電変換量子効率を実現している。しかし、OLEDでの研究例はこれまでほとんどないという。
今回の研究では、ルブレン分子をホスト材料に、エルビウム錯体を発光ドーパントとしたOLEDを用い、一重項励起子開裂を経由して生成された三重項励起子を、エルビウム錯体からの近赤外EL発光として利用できることを初めて実証したという。
一重項励起子開裂が発生しない有機分子を用いた試料との比較を行った。近赤外発光強度がより増強されることや、近赤外強度の磁場応答性などの解析結果から、ルブレン分子を用いた試料では、励起子生成効率が光励起の場合に108.5%、電流励起の場合でも100.8%に達するなど、100%以上に高められることが分かった。
今回の研究成果により、センサーや通信用の光源などに用いられる近赤外OLEDの高輝度や高強度化を実現することが可能になる。現状では近赤外発光色素自体の発光効率が極めて低いため、十分な発光強度は得られていないという。研究グループでは、励起子生成効率と内部EL量子効率が200%となるOLEDの研究と実用化を目指す考えである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 九州大学ら、ポリマー光変調で112Gbpsの光伝送に成功
九州大学は、新たに開発した電気光学ポリマー光変調器を用い、極めて高速な光データ伝送に成功した。デバイスの熱安定性と低電圧駆動を実現した。 - 次世代有機EL材料、発光メカニズムの謎解明
産業技術総合研究所(産総研)と九州大学が、次世代有機EL材料「熱活性化遅延蛍光分子(TADF分子)」の発光メカニズムを解明。高い効率を持つTADF分子がパラ体という共通の構造を持つことを突き止めた。 - グラフェン発光素子をシリコンチップ上に集積
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之准教授らは、シリコンチップ上で動作する高速なグラフェン発光素子を開発した。超小型の発光素子をシリコン上に集積した光通信用素子を実現することが可能となる。 - 出光、有機EL材料事業の新会社を中国に設立
出光興産は、有機EL材料事業の新会社を2018年度第1四半期に中国で設立する。今後成長が予想される中国市場をにらみ、生産拠点を構築する狙いだ。 - 有機ELの生産能力、今後5年間で4.2倍に
世界の有機ELディスプレイパネルの生産能力は、今後5年間で4.2倍に増える。スマートフォンなど携帯機器向けを中心に、韓国と中国のパネルメーカーが増産投資を展開する予定である。 - ソニー、0.5型で最高解像度のUXGA有機ELディスプレイ
ソニーは2018年5月28日、0.5型で最高解像度となるUXGA(1600×1200)を実現した有機ELマイクロディスプレイ「ECX339A」を商品化すると発表した。サンプル出荷は2018年1月より開始しており、量産出荷は2018年11月より開始を予定する。