5G、AIが「がん治療」を変える!? 山中教授らが語る未来:医療×テクノロジー
楽天は2019年8月2日、同社のイベント「Rakuten OPTIMISM 2019」(パシフィコ横浜/2019年7月31日〜8月3日)で、医療最前線:がん治療の革命児たち」と題したパネルディスカッションを実施。京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏ら、がん治療のスペシャリストが、AIや5G(第5世代移動通信)などの最新テクノロジーが医療にもたらす可能性について語った。
楽天は2019年8月2日、同社のイベント「Rakuten OPTIMISM 2019」(パシフィコ横浜/2019年7月31日〜8月3日)で、医療最前線:がん治療の革命児たち」と題したパネルディスカッションを実施。京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏ら、がん治療のスペシャリストが、AIや5G(第5世代移動通信)などの最新テクノロジーが医療にもたらす可能性について語った。
登壇したのは、山中氏のほか、故Steve Jobs氏の治療に携わったことでも知られる、南カリフォルニア大学エリソンインスティテュート創業者兼CEOのDavid B Agus氏と、『第5のがん治療法』として注目を集める「光免疫療法」を開発した、米国立がん研究所主任研究員の小林久隆氏の3人。それぞれ、自身の研究内容について語った後、このイベントのテーマでもあった5G(第5世代移動通信)などの最新テクノロジーへの期待などに触れた。
山中教授は、「病名は同じでも、背景にある遺伝子変異のパターンなど、一人一人の患者で全然違う」と説明。「患者一人一人に合った治療を行う必要があり、患者それぞれのデータの蓄積が非常に重要だ。ただ、こうしたデータは膨大であり、それを解決するのが、ITの力だと思う。そのために、ぜひIT業界の力を貸してほしい」と訴えていた。
5Gによって、医療が”民主化”される
Agus氏は、IoT(モノのインターネット)や5Gの活用による、地域間の医療格差の解消について言及した。
Agus氏は、「現在のがん治療は、データ収集のためにはさまざまな大型機器が必要なため、主要な医療機関での実施に限られている」と指摘。今後、高速かつ大容量の通信が可能になる5Gやその関連技術が発展することで、「インプラントを含め、どこにでも設置できる小型デバイスを使って患者のデータを5Gでクラウドに送信し、分析できるようになるだろう」と話した。
また、「将来の医療は、医療機関でデータ収集をしてその分析結果を持つのではなく、自宅でデータを収集したうえで、医師とともにリアルタイムのデータについて語ることができる」とも話し、「これは非常に有益なことだ。主要な医療機関だけだった技術を、地方に”民主化”する。これが5Gの力だ。ヘルスケアはもはや地域的な縛りを持たなくなる。こうして国全体でより良い治療が可能になり、コストの削減にもつながるだろう」とした。
一方で、こうした医療システムの構築においては、データベースの共通化が課題となるとも言及。「医療の世界ではまだ、共通のデータベースがない。例えば、『足の骨折』に関する表現ですら、統一されていない。データベースの標準化が次の時代の医療への貢献につながる。速やかな発展が必要だ」と強調した。
がん細胞のデータを”顔認証”、AIの進化に希望
「体の中でがんを治すためには、がんと免疫細胞との戦いになる」と語る小林氏は、AIによるデータ処理に期待を示した。
小林氏は、自身が研究する光免疫療法の経過に関するスライドを示しながら、「例えばこのスライド1枚、スライスした中にがん細胞が10万個くらいある。これを重ねると、体の中で10億個のがん細胞と2億個の免疫細胞が戦っていることになる。スライド1枚が30Mバイトのデータで、それが1000枚でできている。これはものすごく大きなデータだ」と説明した。
そのうえで、「AIによる顔認証システムのように、がん細胞に関するビッグデータも同じようにAIで処理し、さらにそれを通信技術によって医師に届けられるような時代ができたらありがたい」と述べた。
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