未来のモビリティーを支える自動運転システム:福田昭のデバイス通信(198) 2019年度版実装技術ロードマップ(9)(2/2 ページ)
前回に続き、ロードマップ第2章「注目される市場と電子機器群」から、3番目の大テーマである「モビリティー」の概要を説明する。今回は、特に「レベル3」の自動運転を提供するECU(電子制御ユニット)と、それに搭載される半導体チップに焦点を当てたい。
「レベル3」の自動運転を提供する「車両統合制御ECU」
自動運転技術では、運転者による「認知」と「判断」、「操作」のサイクル(運転タスク)をどこまで自動化していくかが、基本となる。従って自動運転の要素技術も、センサーによる認知、人工知能を含めた情報処理による判断、アクチュエーターによる操作の3つに分かれている。
自動運転技術とは別に、自動車では電子化(機械制御から電子制御への変更)が進んできた。電子制御を支えるのが、電子制御ユニット(ECU)である。パワートレイン制御、ボディー制御、シャシー制御などにECUが使われている。用途別に、自動車を進化させてきたともいえる。
ただし、自動運転システムの高度化に対応することは、用途別のECUだけでは難しい。今後は、これらの用途別の制御だけではなく、全体を統合して制御する「車両統合制御ECU」が必要となる。
2019年版実装技術ロードマップでは、「車両統合制御ECU」を搭載した乗用車の実例として、アウディ ジャパンが2018年9月に発表し、10月に国内販売を開始した新型「Audi A8」(8年ぶりのフルモデルチェンジ)を取り上げている。
この新型「Audi A8」は、「セントラルドライバーアシスタンスコントローラー(zFAS)」と呼ぶ車両統合制御ECUを搭載した。zFASと数多くのセンサー群の搭載により、レベル3に相当する自動運転機能(このシステムを「AI Traffic Jam Pilot」と呼んでいる)を実現した。具体的には、高速道路で走行中に渋滞に遭遇し、走行速度が時速60km以下になった場合に、運転者のタスクを全てシステムが代行できる。ただし現在では各国での法整備が追い付いておらず、運転者がこの機能を使用することはできない。
車両統合制御ECUの「zFAS」は、いくつかの高性能な半導体チップを搭載している。Moblieyeの画像処理プロセッサ「EyeQ3」(交通標識の認識、歩行者の検知、走行レーン認識など)、NVIDIAの画像処理プロセッサ「Tegra K1」(360度カメラの撮影データ取り込みと撮影データ処理など)、Altera(Intel)のFPGA「Cyclone V」(オブジェクト統合、地図統合、駐車タスク、センサーデータの前処理など)、Infineon Techologiesの32ビットマイコン「Aurix」(渋滞でのタスク、全体の補助など)などである。
zFASに集められるデータは非常に多い。「Audi A8」のフロントには6個の超音波センサーと、2個の中距離(ミッドレンジ)レーダー(フロントの左右角に配置)、1個の長距離(ロングレンジ)レーダー、1個の360度カメラ、1個のレーザースキャナー(LiDAR)を装備する。フロントウィンドウ上端には1個の前方監視カメラを備える。左右のドアミラーには360度カメラを1個ずつ装着してある。リアには6個の超音波センサーと2個の中距離(ミッドレンジ)レーダー(リアの左右角に配置)、1個の360度カメラを備える。センサーとカメラ、スキャナーの数は合計で23個に達する。これらのセンサー群によって得たデータから、車両統合制御ECUは車両周囲の環境モデルを構築する。
このほか、運転者の状態を監視してzFASに伝えるカメラを車内の計器パネルに取り付けてある。
新型「Audi A8」のセンサー/カメラ群と車両統合制御ECU「zFAS」。左に伸びて切れている赤い直線はレーザースキャナーの位置。出典:アウディ ジャパン(2018年9月5日付け広報資料) (クリックで拡大)
レーザースキャナー(LiDAR)の外観。波長905nm、パルス幅4μsの赤外線レーザーによって145度の範囲をスキャンする。反射光の取り込み速度は750回/分。検知距離は80m。出典:アウディ ジャパン(2018年9月5日付広報資料) (クリックで拡大)
(次回に続く)
⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 100年に1度の大変革期を迎えたモビリティー産業
今回から、第2章「注目される市場と電子機器群」で3番目の大テーマとなる「モビリティー」を紹介していく。2019年版のロードマップでは、「自動運転化」「コネクティッド化」「電動化」という3つのワードが含まれていることが、2015年版や2017年版とは大きく異なる点だ。 - 自動運転車の“誇大広告”は、やめよう
今こそ、自動運転車について率直な議論を行うべき時ではないだろうか。最近の予測では、どのメーカーも2025年まで、自動運転車への投資に対する見返りを得られそうにないとされている。また、完全な自動運転車の実現は、早くても2030年以降になる見込みだという。 - 自動運転車市場、2030年に約8250万台規模へ
ADAS(先進運転支援システム)/自動運転システムの世界市場は、2030年に約8250万台規模となる見通しだ。矢野経済研究所が市場予測を発表した。 - レベル5の自動運転よりも現実的? “車内運転支援”
UberやTeslaの事故など、自動走行モードにおける交通事故では、共通する1つの真実がある。「現実世界の状況の中で、人間のドライバーを機械のドライバーに置き換えることは、極めて難しいということが実証された」ということだ。 - 5G対応スマホにみる大手半導体メーカーの“領土拡大”
今回は、既存のスマートフォンに取り付けることで第5世代移動通信(5G)対応を実現するアンテナユニット「5G moto mod」に搭載されるチップを詳しく見ていく。分析を進めると、Qualcomm製チップが多く搭載され、大手半導体メーカーの“領土拡大”が一層進んでいることが判明した――。 - ニューラルネットだって混乱する!その対策は?
安全な自律性を実現すること」は、AIベースの自動運転車の開発者にとって、解決することが最も難しい問題の1つとして挙げられる。米国ペンシルベニア州ピッツバーグに拠点を置く新興企業Edge Case Researchは、認識スタック のエッジケース(境目ぎりぎりで起こる特殊なケース)を識別する安全性評価プラットフォーム「Hologram」を開発している。