マイクロ波を電力に変換する高感度ダイオード:富士通と首都大学東京が開発
富士通と首都大学東京は、携帯電話の基地局などから放射される微弱なマイクロ波を、電力に変換することができる「ナノワイヤバックワードダイオード」を開発した。
センサーネットワークのバッテリーレス化を加速
富士通の河口研一事業部長付と首都大学東京の須原理彦教授らは2019年9月、携帯電話の基地局などから放射される微弱なマイクロ波を、電力に変換することができる「ナノワイヤバックワードダイオード」を開発したと発表。従来のショットキーバリアダイオードに比べて10倍以上の感度を実現した。
身の回りの微小なエネルギーを電力に変換して再利用する環境発電の研究が進む。携帯電話の基地局から放射され、空間に遍在する微弱電波を再利用する環境電波発電もその1つである。微弱電波を電力として活用するには、アンテナと整流素子(ダイオード)を組み合わせて用いる。ところがこれまでのショットキーバリアダイオードは、マイクロワット以下の微弱電波に対して感度が十分でないため、電力への変換が難しかったという。
そこで研究グループは、高い感度を実現するため、トンネル現象を利用して動作するバックワードダイオードを開発した。具体的には、接合する2種類の半導体材料の組成比率と添加する不純物濃度を調整し、直径が150nmのナノワイヤ内に、n型InAs(インジウムヒ素)とp型GaAsSb(ガリウムヒ素アンチモン)の結晶成長を行った。
さらに、ナノワイヤ周囲を絶縁素材で埋め込む加工技術とワイヤ両端に電極膜を形成する加工技術も新たに開発した。これにより、ナノワイヤのダメージを与えることなく、サブミクロンサイズのダイオードを実現。従来のショットキーバリアダイオードに比べて感度が10倍以上となるナノワイヤバックワードダイオードを開発することに成功した。
研究グループは、試作したナノワイヤバックワードダイオードを用い、現行の4G LTE/Wi-Fiに用いられている周波数2.4GHzの電波で検証した。この結果、感度は700kV/Wとなり、センサー電源として十分に活用できることが分かった。これは従来のショットキーバリアダイオード(60kV/W)に比べて約11倍の感度である。
研究グループは今後、ダイオードのさらなる高感度化と、ダイオードを集積するアンテナの最適化を行う。さらに、定電圧化のための電源制御技術を追加するなどして、マイクロ波による環境電波発電を具現化していく。
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