東北大、超電導体を利用し環境発電機能を実証:微弱な環境の揺らぎから発電
東北大学金属材料研究所は、第二種超電導体の渦糸液体状態を利用した環境発電機能を実証した。微弱な環境揺らぎからの発電や、微弱信号を検出する素子への応用が可能だという。
新たな整流素子は渦糸液体状態を利用
東北大学金属材料研究所のヤナ・ルスティコバ氏らによる研究グループは2018年11月、第二種超電導体の渦糸液体状態を利用した環境発電機能を実証したと発表した。研究成果は微弱な環境揺らぎからの発電や、微弱信号を検出する素子への応用が可能とみられる。
この研究成果はルスティコバ氏の他、東北大学金属材料研究所の塩見雄毅助教(現在は東京大学大学院総合文化研究科・広域科学専攻相関基礎科学系准教授)と横井直人研究員、東京工業大学理学院物理学系の大熊哲教授、東北大学金属材料研究所・材料科学高等研究所の齊藤英治教授(現在は東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授兼任)らによるものである。
環境発電は、身近にある光や振動、熱といったわずかなエネルギーを電力に変換して活用することから、究極の省エネルギー技術として注目されている。わずかなエネルギーから電力を得るために必要となるのが整流効果で、これを実現する代表的な素子がダイオードである。
研究グループは、第二種超電導体に特有な「渦糸」の液体状態を利用して、全く新しい整流素子を実証した。具体的には、磁性絶縁体のイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)基板上に、第二種超電導体であるモリブデンゲルマニウム(MoGe)薄膜をスパッタリング技術で形成した試料を用意した。
この試料を一定の温度に保ちながら、面内方向に磁場を印加した。そうしたところ、ある特定の磁場値では、外部入力がなくてもMoGeの面内方向に直流電圧が発生することが分かった。しかも、この直流電圧は電磁ノイズのある測定環境で、安定して観測され続けたという。
研究グループは、直流電圧が生じる温度と磁場の条件について調査した。この結果、MoGeが「渦糸液体相」にある場合に、電圧が生じていることが分かった。渦糸とは第二種超電導体特有の欠陥で、超電導体の内部に侵入する磁束線だという。この渦糸が超電導体内部で自由に運動できる状態になっている部分が渦糸液体相である。
研究グループによれば、実験で観測された直流電圧は、磁性絶縁体のY3Fe5O12がMoGeの片側に取り付けられたことによって生じたとみている。Y3Fe5O12が付いた表面とそうでない表面では、渦糸が超電導体内部へ入り込むために必要なエネルギーが異なり、それぞれの表面近くで渦糸の量が不均衡となる。
MoGe薄膜の面内方向に電流を流すと、薄膜の面直方向に駆動される渦糸の数は、電流の正と負で異なる。こうした渦糸の流れで面内方向に電圧が生じ、超電導の電気抵抗として観測される。研究グループは、測定された直流電圧は、測定器内部にある電磁ノイズが、渦糸の量が不均衡となったことによって整流された結果だとみている。
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