SiCパワーデバイスがモビリティの電動化を加速:福田昭のデバイス通信(203) 2019年度版実装技術ロードマップ(14)(2/2 ページ)
今回は、電動化のキーデバイスである「パワーデバイス」に関してロードマップが記述した部分の概要をご紹介していく。
Siパワーデバイスの限界を超えるSiCパワーデバイス
パワーデバイスの半導体材料にはこれまで、主にシリコン(Si)が使われてきた。最近になってパワーデバイスの半導体材料として研究開発が活発になり、実用化されているのが、シリコンカーバイド(SiC)である。SiCは絶縁破壊に対する電界強度がSiよりも10倍と高い。またSiCのエネルギーバンドギャップはSiの3倍と広い。このため、SiCデバイスはSiデバイスに比べると、耐圧が高く、低い抵抗で高速動作し、さらには高温で動作するという特長を備える。
SiCのパワーデバイスはすでに、家電用、産業用、自動車用、鉄道用、電力用で実用化が進んでいる。今後は、航空用にも適用が進むと期待される。
例えば電動化した自動車向けでは、SiのパワーモジュールをSiCのパワーモジュールに置き換えることで、電力損失が3割と大幅に減少する。またハイブリッド自動車のパワーコントロールユニット(PCU)の体積を5分の1に小型化することや、燃料消費率(燃費)を10%高めることが期待されている。
さらに、電車のVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)インバーターでは、スイッチング素子をSiデバイス(SiのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とSiダイオード)からSiCデバイス(SiCのMOSトランジスタとSiCショットキーバリアダイオード)に変更することで、インバータにおける電力損失を45%に減らすとともに、インバーターの大きさと重量を35%に小型、軽量化できている。
電車のVVVFインバーターにおける損失の比較。左はSiのIGBTとダイオードをスイッチング素子としたもの。中央はダイオードをSiからSiCに変更したもの。右はIGBTをSiCのMOSトランジスタに変更するとともに、ダイオードをSiCに変更したもの。出典:JEITA
(次回に続く)
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