熟練の職人技が支える、パナソニックの補聴器製造現場:2019年で60周年を迎えた(4/4 ページ)
パナソニックの補聴器事業が、2019年に60周年を迎えた。創業者の一声から始まったという事業は、形や機能など同社ならではの技術力を生かして発展を続けており、近年はテレビと直接つながったり、スマートフォンアプリで操作が可能になったりと、時代に合わせた進化を遂げている。一方で、ユーザーそれぞれの耳穴に合わせたオーダーメイド品は、造形で3Dプリンタを使っているものの、その他作業はもっぱら熟練の技術者のノウハウに支えられているという。今回、その製造現場を取材してきた。
1つ1つ手作業で組み立て
シェルが造形できたら、組み立ての工程に移る。これは、CADでシミュレーションしたスピーカーなどの部品を実際に組み立てる工程だが、「米粒程度」のスピーカーを、シェルの内側に触れないように接着する作業が必要となる。さらに、固定したスピーカーの幅約0.2mmのリードを、直径約0.5mmのピンに手作業でハンダ付けする作業も必要であり、技術者が約20倍の顕微鏡を除きながら、ピンセットで1つ1つ作業を進めてく。作業にあたっていた技術者は、「CADのシミュレーションではかなり細かい設定ができるが、それを現実で手作業で実現するのは難しい。これは長年のノウハウ、技術の集大成だ」と話していた。慎重を期す作業であり、1件につき約1時間半と、全行程で最も時間がかかるという。
この後、シェルと基板を接着したうえで、顧客の耳穴の型から作成した逆型(耳の内側の型)にシェルをはめ込み、不必要に接触している点がないかなどを確認、不要な箇所を見つけたらそこを削りながら仕上げていくが、技術者は、「このあたりの作業は、手順書にも『滑らかに仕上げる』としか書いていない。実際に作業をしていても、なかなか口で表現できるようなものではない。長年の経験とカンが頼りになる作業だ」と話していた。
仕上げて完成、だが問題あればやり直し
仕上げ終わった後は、「つるつるになるまで」磨き上げ、コーティング剤を塗って完成となり、顧客のもとに届けられる。この後、もし顧客から「耳に合わない」と言われれば、その情報をもとに再度、調整を行っていくという。
ゆくゆくはIT化、データ活用も視野に
こうして、職人のノウハウと技術の結晶としてオーダーメイド品が送り出されている。ただ、後継者育成のための取り組みも進めるが、「最近は、ハンダ付けの技術がある若い人が少ない」などと、懸念も示した。
同社としては、「IT化も常に考えている」というが、「現段階では蓄積してきたデータを使って作れるかというかというとそんな簡単な話ではない。例えば現在、相談員から、『顧客の耳垢がこうなっていて――』と情報があれば、それに合わせた形を職人のカンで作っている。それをどう機械化すればいいか。なかなかIT化に向けては障害が高いのが実情だ」と説明。そのうえで、「今後、一部はIT化して、確認を人間がするというような工程としては進めていきたい」としている。
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