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ベンチャーエコシステムの活性化、大企業・政府・大学の役割とはイノベーションは日本を救うのか(35)(4/4 ページ)

今回は、ベンチャー企業とベンチャーキャピタル以外のところを取り上げたい。具体的には、ベンチャー企業のエグジット、日本政府が果たせる役割、そして大学の役割だ。

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大学の役割:大学発ベンチャーの促進と産学連携の推進

 日本のベンチャーエコシステムを強くするうえで、大学に関して挙げておきたいのは、大学発ベンチャー企業および産学連携(図6)だ。


図6:大学発ベンチャーと産学連携 出典:大学技術移転協議会(クリックで拡大)

 よく知られているように、米国では、ハイテクベンチャーの発祥地といえば必ずと言ってよいほどその土地の大学が大きな役割を果たしている。

 もともとハイテク産業の発祥の地であるボストン地区は、MIT(マサチューセッツ工科大学)やハーバード大学、シリコンバレーではスタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、バイオテクノロジーのベンチャー企業を多く生み出しているサンディエゴはカリフォルニア大学サンディエゴ校といった具合だ。

 これらの大学はいずれも技術ライセンスオフィスを設置していて、大学から出てくるインベンションあるいはイノベーションに関わる知財をいったん登録し、外部の企業(ベンチャーも含む)にライセンス提供することで、イノベーションの商業化に貢献している。

 また、これらの大学はライセンス料を取って大学の教育、研究財源として活用している。ちなみに米国と日本の大学が手にするライセンス料は雲泥の差がある。

 Googleのごときは、Sergey BrinとLarry Pageが開発した検索エンジンはスタンフォード大学のOTL(Office of Technology Licensing)に一度登録され、二人がGoogleを創立した時点でライセンス料を一部Googleの株式で支払っている。結果、後になってスタンフォード大学はその株を売り、4億米ドルのキャッシュを手にしている。

 ベンチャーだけでなく、外の企業に対する大学の新規ライセンス件数に関しては、日本は米国の3分の1程度だが、ライセンス収入では、日本は米国の100分の1ぐらいと推定される(大学技術移転協議会の大学知的財産年報2016年度版)。この差は、米国における特許権の売買価格や訴訟となった際の損害賠償額が、日本よりもはるかに高いことにもよると考えられる。

 日本国内では、ライセンス収入額より、件数を増やす努力が必要だろう。文科省では2014年から2017年にかけて、グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGE: Enhancing Development of Global Entrepreneur Program)を実施し、さらに2017年から5年間、次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT: Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT Generation)を実施中だ。これらのプログラムは、それなりの役割を果たしていると思う。

 産学連携については、米国の多くの大学では産学連携プログラム(ILP: Industry Liaison Program)を設けている。このようなプログラムのメンバー(もちろん有償だ)になっている企業は、その大学の研究内容や研究者に、ILPを通してアクセスできるようになっている。さらに、「Industry Sponsored Research Program」というものもある。その名の通り、大学が、企業から資金を受けて、その企業が要求する研究テーマに関するリサーチを行うのだ。

 このように、米国では、産学連携は大々的に、しかもシステマチックに行われている。

 日本は2016年に、官民戦略プロジェクトとして「日本再興戦略2016」を閣議決定している(参考)。ここでは、2025年までに企業から大学への投資を3倍に増やすことが目標として掲げられている。

 産学連携センターは、今では多くの大学に設置されているが、本当に機能しているのは東京大学ぐらい、というのが筆者の正直な印象だ。

 今後は、ベンチャー企業を実際に育てたり、起業経験があったりといった人材を高待遇で産学連携センターに雇い入れ、活躍してもらうことが重要なのではないか。むやみに技術移転機関(TLO)を設置するだけではなく、TLOに登録される技術の価値を判断し、それをどう活用したら最も効果的に大学の外に移転できるのかを考えられる、経験とノウハウを持った人材が不可欠だと、筆者は思う。


「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。

AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。

2019年3月まで、静岡大学工学部大学院および早稲田大学大学院ビジネススクールの客員教授を務め、現在は、中部大学客員教授および東洋大学アカデミックアドバイザーに就任している。

2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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