どんな量子計算も実行できる量子もつれ、東大が実現:量子コンピュータの実用化を加速(2/2 ページ)
東京大学は2019年10月18日、同大学大学院工学系研究所物理工学専攻教授の古澤明氏と同博士課程のAsavanant Warit氏らが、「どのような量子計算でも実行できる量子もつれ」の生成に世界で初めて成功した、と発表した。古澤氏らの研究グループは、「量子計算の規模を従来よりも飛躍的に拡大できる突破口が明らかになり、実用的な量子コンピュータへの新たな道が開けた」としている。
「世界初」の2次元クラスタ状態実現、鍵となったのは「時間領域多重技術」
この2次元クラスタ状態実現の鍵となったのは、現在主流の超伝導やイオントラップとは性質が異なる光を使った「時間領域多重技術」だという。
古澤氏らの研究グループは、これまでにも時間領域多重技術の開発を進めており、この技術を用いた量子もつれ状態生成の実験も行ってきたが、生成された量子もつれは「いずれも一方向量子計算に使うには不十分だった」(同大)。
そこで今回、時間領域多重の技術を使った新しいセットアップを考案したことで、2次元クラスタ状態の生成に成功したのだという。
時間領域多重のイメージ図。従来の光の量子もつれの生成実験(上)では、1つの量子的な光源(スクイーズド光源)を1つの量子ビットとして扱ってきたが、この方法の場合、大規模な量子もつれを作るためには、量子ビットの数に応じて光源も用意しなければならず、技術的に極めて困難だった。古澤氏らの研究グループが開発した時間領域多重方式(下)では、1つの量子的な光源から連続的に出てきた光を時間的に区切り、区切った1つ1つの波束(パルス)をそれぞれ量子ビットとして扱うことで、1つの光源から無数の量子ビットを生成することを実現している(クリックで拡大)出典:東京大学
今回の2次元クラスタの生成系の概要図。必要な要素は4つのスクイーズド光源、5つのビームスプリッター(部分透過ミラー)と2つの光学遅延系で、スクイーズド光源が動作している限り、2次元クラスタの長辺(ステップ数)の長さはいくらでも長くすることができるという。短辺(入力数)は2つの遅延系の長さの比で決まる。今回は短い方が12m、長い方がファイバーによる40m(空気中の60mに相当)で5倍の違いがあるため、5入力を扱える2次元クラスタ状態となっている。入力数を増やしたいときはこの比だけ増やせばよく、他の光学素子の配置を変更する必要はない。このシステムは大規模な2次元クラスタ状態を容易に生成することができ、さらに2つの遅延系の長さの比さえ変えれば原理的にどれほど大きいクラスタ状態でも作ることが可能になっているという(クリックで拡大)出典:東京大学
常温動作する10円玉大の量子コンピュータチップの実現も
今回実現した2次元クラスタ状態は、2万5000光パルスの大規模量子もつれになっており、原理的には5入力、5000計算ステップの任意の量子計算が実現可能という。今後、クラスタ状態の質や計算に使える入力数、ステップ数も増やしていく方針で、「ステップ数は現在でも実質的に無限で、入力数は最先端技術を使えば1万個程度までの増加が見込まれる」としている。
古澤氏ら研究グループは、「今後、クラスタ状態を実際の計算に使うために必要な要素技術を開発し、それを本研究の成果と組み合わせることで、このクラスタ状態を使った量子操作の原理実証を進める」としている。また、このクラスタ状態の生成システムをチップ化することも視野に入れており、「常温で動作する量子コンピュータチップへの研究も進めていく」としている。
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