情報記憶素子用材料の電気化学酸化反応を可視化:北海道大学と釜山大学校
北海道大学と釜山大学校の研究グループは、次世代情報記憶素子用材料として期待される、コバルト酸ストロンチウム薄膜の電気化学酸化反応を可視化することに成功した。
熱電特性の計測と導電性原子間力顕微鏡観察を組み合わせ
北海道大学電子科学研究所の太田裕道教授と韓国・釜山大学校のジン・ヒョンジン准教授らの研究グループは2019年11月、次世代情報記憶素子用材料として期待される、コバルト酸ストロンチウム(SrCoOx)薄膜の電気化学酸化反応を可視化することに成功したと発表した。
研究グループはこれまでに、200℃程度の比較的低温環境で、SrCoOx薄膜の酸素量(x)を制御できることを発見。2016年にはSrCoOxの酸化・還元反応を応用し、電流と磁性で情報を記憶できる素子構造を提案し、試作も行ってきた。
ただ、実用化に向けては、「絶縁体」から電気が流れる「金属」に切り替わるまでの時間が数秒と長く、「情報の切り替え時間短縮」が課題であった。この課題を解決するためには、巨視的なスケールで材料の酸化・還元反応を可視化し、分析する必要があったという。
ところが、巨視的スケールの可視化で一般的に用いられる透過型電子顕微鏡だと、電子線照射に対する耐性が低いSrCoOxには適用することができなかった。そこで今回、熱電特性の計測と導電性原子間力顕微鏡(導電性AFM)による観察を組み合わせる、新しい可視化手法を開発した。
SrCoOxは、酸素量(x)が2.5の場合は電気的に絶縁体となり、xが3になると金属のように電気が流れ、磁石にくっつく特性を示すことが分かっている。今回の研究ではまず、面積が1×1cmのSrCoO2.5薄膜を酸化させ、酸化の度合いが異なる6種類の薄膜試料を作製した。
これらの薄膜試料について、電気抵抗率や熱電能といった熱電特性を計測、得られたデータを解析した。さらに、熱電特性の計測と解析から得られた知見を分析するため、導電性AFMによる観察を行った。
この結果、SrCoO2.5層とSrCoO3層を、「柱状成長モデル」と仮定して解析すれば、実験で得られたデータとほぼ一致し、SrCoO2.5薄膜の電気化学酸化反応は柱状に起きていることが分かった。層状に重なる「層状成長モデル」と仮定して解析した場合には、実測値を再現することができなかったという。
さらに、導電性AFMによる試料観察で、大きさに関する情報収集を行った。走査範囲は2×2μmである。形状像では大きな変化を観察することはできなかったが、電流像では直径約100nmの大きさの電気が流れる領域が、酸化度合いの増加に伴って増えていく様子を観察することができたという。
研究グループによると、新たに開発した可視化手法は、SrCoOx薄膜を用いた次世代情報記憶素子の開発だけでなく、「透過型電子顕微鏡による観察ができない材料の電気化学酸化・還元反応の可視化にも役立つ」とみている。
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