顔認証をもっと安価で手軽に、amsの「Seres」:アクティブステレオ方式で
amsジャパンは2019年11月12日、より低コストで顔認証などの3次元(3D)センシングが可能になる、アクティブステレオビジョン(以下、ASV)製品「Seres(セレス)」を発表した。“アクティブステレオ”の名の通り、2個のカメラとドットパターンプロジェクターを使い、カメラの視差情報と、プロジェクターで投影するパターン画像によって、3D距離計測を行うための製品だ。
視差カメラを使うアクティブステレオ方式
amsの日本法人であるamsジャパンは2019年11月12日、より低コストで顔認証などの3次元(3D)センシングが可能になる、アクティブステレオビジョン(以下、ASV)製品「Seres(セレス)」を発表した。“アクティブステレオ”の名の通り、2個のカメラとドットパターンプロジェクター(以下、プロジェクター)を使い、カメラの視差情報と、プロジェクターで投影するパターン画像によって、3D距離計測を行うための製品だ。
Seresは、近赤外カメラ2個、RGBカメラ、プロジェクター、イルミネーター(赤外線光源)、Qualcommのアプリケーションプロセッサ「SnapDragon 845」などを搭載したレファレンスデザインである。amsジャパンは、このSeresを評価用として提供する。イルミネーターは、暗い所で近赤外カメラを動作させる時に、ドットプロジェクターだけでは足りない光を補うために搭載している。さらに、イルミネーターを搭載することで、顔認証の時に、人間の目が開いているかどうか(寝顔でも認証できてしまう場合があるというのが、顔認証の課題となっている)など、3次元のみならず2次元(平面)での精度も上げることができる。
レファレンスデザイン「Seres」。外形寸法は34×30×5.5mm。上部の左端および右端に搭載されているカメラが近赤外カメラ。赤枠がドットプロジェクターで、黄色の枠がイルミネーターである 画像:amsジャパン(クリックで拡大)
Seresの最初のターゲット市場はスマートフォンだ。スマートフォンでは数年前から顔認証機能の搭載が始まったが、顔認証を行う3D距離計測の方法としてはStructured Light方式が主流となっている。「iPhone」の顔認証も、同方式を採用している。パターンがついた光を、プロジェクターから対象物に照射し、そのパターンが対象物に当たることで生じたひずみ(パターンのひずみ)から、対象物との距離を計測するというもの。プロジェクターと、パターンのひずみを見るカメラがそれぞれ1個ずつ必要になる。
ただ、この方式だと、大量のドットをランダムに照射することが必要になるため、プロジェクターが高額になってしまう。精密な光学部品も必要なのでそこにもコストが掛かる。さらに、ドットパターンのひずみから深さ方向を計測するアルゴリズムにさまざまな特許があったり、処理能力が高いプロセッサが必要だったりと、コストに関わる課題が多くなる。
既存のアルゴリズムで安価に
一方で、Seresのようなアクティブステレオ方式では、ドット数がそれほど要らず、ドットパターンもランダムではなく固定でよい。さらに、視差カメラを使う距離測定は既に成熟した技術なので、特許についてそれほど心配することがない、既存のアルゴリズムを使うことができる。そのため、顔認証をはじめとした3Dセンシングのアプリケーションを、より低コストで開発できるようになる。
amsジャパンのFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)を務める光久敬二氏によれば、Seresを使った顔認証の精度は、Structured Light方式を採用した場合と同等だという。「2個のカメラが必要にはなるが、システムとしては(Structured Light方式よりも)安価になるので、顔認証を含む3Dセンシングソリューションが、より“万人向け”の技術となるのではないか」(光久氏)。例えばスマートフォンでいえば、ハイエンドの機種でなくとも、高精度な顔認証機能を搭載できる可能性があるということだ。
amsは、顔認証のアルゴリズムも開発中だ。光久氏は、「amsとしては、顔認証の精度を向上させるハードウェアと、顔認証用のソフトウェアという2つのソリューションを提供していく。最終的には、モジュールのような形で、ソフトウェアもパッケージングするといったことは考えている」と説明する。amsは、顔認証用ソフトウェアの開発にも注力している。2018年2月には、PC向けの顔認証ソフトウェアを手掛けるスイスのKeyLemonを買収したと発表した。
光久氏によれば、顔認証機能に対する需要が高いのは中国だという。Seresについても、「まずは中国市場でビジネスになっていくのではないか」と述べる。一方で日本市場については、どの分野で顔認証のニーズがあるのかを調査し始めたところだという。「無人化を進めたいアプリケーションに可能性があると考えている。また、顔認証による決済サービスの普及が進めば、さらに(Seresの)ターゲット市場が広がっていくのではないか」(光久氏)
光久氏は、「将来的には、顔認証だけでなく、立体物を認証するというコンセプトでSeresを展開していきたい」と語る。同氏は「視差カメラを使う方式は、3D測距の技術としては最も着手しやすいのではないか。開発の負荷が低く、開発時間も比較的短時間で済む。当社は、3D測距のソリューションとして、Seresのようなハードウェアから立体認証のアルゴリズムまで持っているが、このようなメーカーは珍しい」と述べ、それがamsの強みであることを示唆した。
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