アナログニューロンチップで1μ秒以下の「脊髄反射」:東芝情報システムが初公開
東芝情報システムは、応答速度1マイクロ秒以下と、脊髄反射のような知的処理を超低消費電力で実現する新型アナログニューロンチップを開発し、「ET&IoT Technology 2019」(2019年11月20〜22日、パシフィコ横浜)で初めて公開した。
東芝情報システムは、応答速度1マイクロ秒以下と、脊髄反射のような知的処理を超低消費電力で実現する新型アナログニューロンチップを開発し、「ET&IoT Technology 2019」(2019年11月20〜22日、パシフィコ横浜)で初めて公開した。
一般的に、ニューラルネットワークに代表されるAI処理は大量の演算を行う必要があり、汎用的なプロセッサでは、超低消費電力で高速動作させることは困難だ。一方、ニューラルネットワークのモデルである「脳」は、数十ワット程度で効率的にアナログ動作している、とされている。同社は、「脳のようにアナログ動作するハードウェアが有望だが、半導体のアナログ回路では超低消費電力の環境で不安定になりがち、という技術課題があった」としている。
そうしたなかで東芝は、超低消費電力の環境でもニューロン回路を安定的に動作させるため、抵抗器でアナログ電流を制御して比較出力し、入力信号によってアナログ電流をクロス状に切り替えるという、独自の動作原理を考案している。東芝情報システムは今回、この技術を活用し、ICのシステム設計、試作、評価を実施。ニューロン回路として基本的な演算動作および、処理性能を実証したという。開発に当たっては、同社が提供する"アナログ版FPGA"「analogram」を用いることで、早期のチップ化を実現している。
1マイクロ秒以下の『脊髄反射的』な応答を実現
このアナログニューロンチップで再現された「ニューロン」の数は32個で、1層のニューラルネットワークを構成。そのため比較的簡単な判断しかできないものの、応答速度は1マイクロ秒以下で、消費電力は1〜10mW程度に抑えている。同程度の消費電力で動作するマイコンなどと比較して10倍以上の速さで動作可能であり、消費電力については、今後さらに100μW級に削減できる見込みだという。
展示ではこのアナログニューロンチップを用い、5つのタッチセンサーからの入力に対し即座に信号を出力し、それぞれ決まったパターンでLEDを点灯させるデモを用意していた。このデモでは同時に、マイコンとの反応速度の比較も行っていた。また、ピンポンゲームで今回のチップがCPUと対戦するデモも用意されていた。説明担当者は、「IoT(モノのインターネット)機器のセンサー情報による異常検知や故障予兆検知などの他、教育用途での利用も想定できる。今後もさらに開発を続け性能を伸ばしていく」と話していた。
同社は、「超低消費電力化の基本原理をさらに発展させることで、将来、監視データやセンサーデータなどが爆発的に増加しても、クラウドを圧迫せず、個別の組み込み機器やIoT機器などで学習や推論ができることが期待できる」としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 深刻化する「ハードウェアトロイ」の脅威を防ぐには
無害なプログラムのように偽装されながら、あるトリガーによって不正な動作を行うマルウェア「トロイの木馬」。そのハードウェア版と呼べる「ハードウェアトロイ」の脅威が、IoT(モノのインターネット)社会が拡大する中で深刻化している。今回、早稲田大学理工学術院教授の戸川望氏と共同でハードウェアトロイの検出ツールを開発した東芝情報システムの担当者を取材した。 - ハードウェアトロイ検知手法、実回路で効果確認
早稲田大学理工学術院の戸川望教授と東芝情報システムは、ハードウェアトロイ検知技術で連携し、共同開発した検証ツールを用いて、検知技術の効果を確認した。 - 製造終了LSIの再供給、設計データが不完全でも可能
東芝情報システムは、「TECHNO-FRONTIER 2019(テクノフロンティア)」(2019年4月17〜19日、千葉・幕張メッセ)で、製造終了となったLSIの再供給を可能にする「ディスコンLSI再生サービス」や、自由にアナログ回路を構成できるプログラマブルデバイス「analogram」を利用した学習用トレーニングキットを展示した。 - 東芝情報システム、ソフトの流出や模倣を防止
東芝情報システムは、「第8回 IoT/M2M展 春」で、IoT(モノのインターネット)の上流から下流まで、悪意ある攻撃からシステムを保護するためのセキュリティソリューションを提案した。 - カメラに画像認識機能を搭載、エッジ側で処理
東芝情報システムは、「Embedded Technology 2017(ET 2017)/IoT Technology 2017」で、ネットワークや電源など大規模な設備工事を必要としない、自律型監視システム「CVNucleus VisCAM」をデモ展示した。 - IoT接続基盤ソフト、東芝情報システムが発売
東芝情報システムは、ファイアウォール内側にある組み込み機器を、安全かつ低コストで、リアルタイムに操作できるIoT(モノのインターネット)接続基盤ソフトウェアパッケージ「NetNucleus Cloud Hub」を発売した。