中国は先端DRAMを製造できるか? 生殺与奪権を握る米国政府:湯之上隆のナノフォーカス(20)(3/3 ページ)
2019年11月から12月にかけて、中国のメモリ業界に関して、驚くようなニュースが立て続けに報じられている。筆者が驚いた3つのニュース(事件と言ってもよいのではないか)を分析し、今後、中国が先端ロジック半導体や先端DRAMを製造できるか考察してみたい。
紫光集団はDRAM技術者を集められるか?
マイクロン・ジャパンの技術者たちによれば、「Micronに買収されて本当のDRAMビジネスが理解できた」「エルピーダが倒産したのは不運だったのではなく、当然の帰結だ」「外資企業となった現在は完全な実力主義であり、実績を上げれば昇進・昇格・昇給できる」「仕事は大変だが充実しており、エルピーダ時代がいかに甘かったかが実感される」という。
現在マイクロン・ジャパンで活躍している技術者たちは、NECや日立製作所でのDRAM撤退、エルピーダの設立と倒産、Micronによる買収を経験している。そのような激動の人生経験から、DRAMで生き残っていくためには、何をすべきかを身をもって体得したと思われる。それと同時に、エルピーダCEOだった坂本氏の正体も分かってしまったのだろう。
以上の理由から、いくら紫光集団が高額報酬で技術者を募集し、坂本氏がヘッドハントしようとしても、優秀なDRAM技術者は、集まらないと推測される。少なくとも、マイクロンから紫光集団に転職する技術者は、いないだろう。そして、技術者を集められなければ、紫光集団は、先端DRAMを開発し製造することができない。
ChangXinは本当に先端DRAMを製造しているのか?
中国のDRAMの製造について、JHICCは頓挫し、紫光集団も無理そうだと思っていた。そのようなときに、「ChangXinは既に(先端DRAMの)供給を開始していると主張している」という記事を読んだため、正直に言うと腰を抜かすほど驚いてしまった。
しかし、ChangXinは本当に先端DRAMを製造し、供給しているのだろうか?
そこで、自分にできる限りの調査を行ったところ、次のような実態が明らかになった。確かに現在、月産約2万枚のDRAMラインが構築されている。しかし、2019年Q3時点の実際の稼働率は20%以下であり、アウトプットはゼロに等しいと思われる。つまり、ほとんど良品が取れていない模様だ。
また、2020年Q1に月産1万枚を流す予定らしいが、それでも稼働率は50%である。さらに、2020年に月産4万枚にキャパシティーを倍増する計画だったが、その装置の導入はまだなされていない。
要するに、先端DRAMの製造は、そう簡単ではなかったということである。とは言っても、ChangXinが永遠に先端DRAMを製造できないと思っているわけではない。月産2万枚のラインにウエハを流し続け、その結果を設計、プロセスフロー、各プロセスにフィードバックしていけば、いつかは良品が取れるようになり、歩留まりも上がるだろう。
しかし気になるのは、ChangXinにも、日韓台のDRAM技術者がいるらしいということである。前掲の吉田氏の記事には、ChangXinはDRAMのIP(Intellectual Property)について、2009年に倒産したQimondaの知財を合法的に入手していることが記載されている。
しかし、Qimondaの技術は明らかに時代遅れであり、これでは1X(19nm)世代のDRAMを製造することはできそうもない。従って、日韓台のDRAM技術者が最新のIPを提供している可能性がある。もし、それが判明した場合、米国政府はどのように対処するだろうか。“JHICC-UMC事件”の二の舞になるのではないか?
SEMIは2021年に中国の装置市場が世界最大になると予測
SEMIが12月10日、世界半導体製造装置市場の年末予測を発表した(関連記事:「世界半導体製造装置市場、2019年は前年比10%減」)。その発表を基に、2000〜2021年までの世界の装置市場および地域別装置市場の推移をグラフにしてみた(図2)。
世界の装置市場は、2013年以降、右肩上がりに成長し、2018年に644億米ドルでピークアウトした。メモリ不況となった2019年は576億米ドルに落ち込むが、その後再び増大に転じ、2021年には667.9億米ドルと、2018年のピークを越えて過去最高を記録する予測になっている。
地域別市場では、メモリシェア1位のSamsung Electronicsと2位のSK hynixがある韓国市場が2016年から2017年にかけて急拡大し、2019年に急落した。また、ファンドリー1位のTSMCがある台湾市場が2019年に、韓国を抜いて最大規模になる見込みである。
一方、本稿で取り上げた中国市場は、2012年以降急激に拡大して行く。2016年に日米をあっさりと抜き、2018年に台湾を超え、2019年には韓国も追い抜いて、2021年に世界最大の市場になると予測されている。
しかし、本当に、この予測通りに中国市場が拡大して行くのだろうか? オランダ政府が”忖度“した結果、EUV露光装置の中国導入は保留された。そして、JHICCは憤死した。
3次元NANDフラッシュの製造を行っている長江ストレージ、DRAMを製造しようとしているChangXinや紫光集団、微細化の推進にまい進しているSMICが、今後も米国製の装置を導入し続けることができるだろうか?
米中ハイテク戦争の行方次第では、いつ中国の装置市場の成長が止まってもおかしくない。今のところ、中国半導体産業の生殺与奪権は、米国政府が握っていると言える。東京五輪が開催される2020年に、中国半導体業界にどんな事件が起きるかを注目していきたい。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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