テラヘルツ波レーダーを開発、衣服越しに拍動計測:テラヘルツ波の導波路構造を工夫
慶應義塾大学と情報通信研究機構(NICT)は、小型で固高い分解能を持つテラヘルツ波レーダーを共同開発した。これを用いて、心拍の動きを衣服の上から非接触で計測できることを実証した。
フェーズシフターやサーキュレーターなしで実現
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の門内靖明専任講師のグループは2020年1月、情報通信研究機構(NICT)の笠松章史上席研究員や渡邊一世主任研究員らと、小型で固高い分解能を持つテラヘルツ波レーダーを共同開発したと発表した。これを用いて、心拍の動きを衣服の上から非接触で計測できることを実証した。
テラヘルツ波を用いたレーダーは、ミリ波などに比べて分解能が高く、光よりも媒質透過性の高い計測が可能となる。一方で、ビームを走査するためのフェーズシフターや送受信波を分離するためのサーキュレーターが必要となるが、これらの作製に適した低損失の材料が、これまで見当たらなかったという。
研究グループは今回、テラヘルツ波の導波路構造を工夫し、中央給電構造による励振モードの対称性と、導波路内外の波動結合指向性の対称性を組み合わせた。これにより、フェーズシフターやサーキュレーターを使わずに、ビーム走査と検波を同時に実現した。
具体的には、テラヘルツ帯向けにスケールダウンした導波路をベースに、給電点から左右対称に波動を励振できるよう、中央に増幅逓倍器を設けた。また、左右両終端部にそれぞれ受信器を取り付ける構造とした。これによって、一部の波動は空中に放射され、残りは導波路内にとどまって終端部に達するという。
この構造としたことで、片方の導波路から放射された波動は遠方の対象物で反射し、もう一方の導波路で捕捉される。その後、導波路内にとどまって終端部に達する波動と干渉し、受信器で検波されるという。この結果、周波数掃引によってビーム走査と検波を同時に実現することが可能となった。
研究グループは、得られたデータを処理し、対象物の方向や距離、速度を算出する手法も開発した。この手法を活用し、レーダーとしての機能を実証した。開発したレーダーを用いると、衣服の上からでも胸部の拍動を非接触で計測することができ、心電図と同期した詳細な動きを捉えられることも分かった。
なお、今回の共同研究では、慶應義塾大学が導波路構造やデータ処理手法の考案と製造、実験の全般を担当。NICTが実験設備(先端ICTデバイスラボ)の提供と、テラヘルツ帯特有の実験技術に基づく導波路特性評価の一部を行った。
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