差動伝送ラインを雑音から守るコモンモードフィルタ(前編):福田昭のデバイス通信(231) 2019年度版実装技術ロードマップ(41)(2/2 ページ)
今回は、チップビーズとともにEMC対策部品の代表ともいえる「コモンモードフィルタ」の概要を説明する。
シングルエンド伝送と差動伝送の利害得失
電気信号の伝送方法は大別すると、「シングルエンド伝送(Single-ended Signaling)」と「差動伝送(Differential Signaling)」に分かれる。シングルエンド伝送は、グランド(接地)電位と信号電位の差分を信号の振幅として伝送する。複数の信号伝送線が1つの電源電位(電源配線)とグランド電位(接地配線)を共有することが多い。シングルエンド伝送は回路が単純で、コストが低い伝送方式である。
差動伝送は、2本の信号線(ペア)が互いに逆相になるように電位を設定し、2本の信号電位の差分を信号の振幅として伝送する。すなわち対となる信号線の1つが基準電圧に対して低い電位(論理値としては「低」)のとき、もう1つの信号線は基準電圧に対して高い電位(論理値としては「高」)となる。グランド電位(接地配線)は信号振幅とは独立である。
差動伝送の特長(利点)は、高速の信号伝送に向いていることだ。信号を高速に伝送しようとすると、通常は信号振幅を小さくする必要がある。信号遷移(スイッチング)に必要な電流を低くするためだ。スイッチングによって放射する電雑音を小さく抑えるという理由もある。
シングルエンド伝送では、信号振幅を小さくすることは信号電位をグランド(接地)電位に近づけることを意味する。接地電位が変動すると信号電位と重なりやすくなり、伝送エラーの確率が増加する。これに対して差動伝送では、基準電圧を接地電位から離せるので、接地電位の変動に強い。
また差動伝送では信号電位そのものではなく、2本の信号電位の差分によって信号を伝えるので、同相モードの雑音に強い。例えば接地電位が上昇すると、2本の信号線の電位は同じように上昇する。このため信号振幅そのものには、影響を与えない。また対となる信号線は基本的に近接して配置するので、外部から雑音が侵入しても2本の信号線は同じように信号が変動する。信号振幅はほとんど変わらない。
差動伝送がコモンモードフィルタを必要とする理由
このように差動伝送では同相モード雑音に強いので、同相モード雑音をキャンセルするコモンモードフィルタは必要ないようにも見える。その通りで、「完全に理想的な」差動伝送ではコモンモードフィルタは不要である。
しかし現実の差動伝送は、理想からはかなり遠い。まず、理想的な差動伝送では対となる2本の信号が完全に同じ振幅かつ同じタイミングで変化することを要求する。さらに、対となる2本の信号線の長さは完全に等しくなければならない。これらの要求を完璧に実現することは、実際には不可能である。振幅とタイミング、信号長のズレは必ず生じる。これらのズレは同相モード(コモンモード)雑音となる。そして不要な電磁雑音を放射する。このため、コモンモードフィルタが必要となる。
そしてコモンモードフィルタに対する要求仕様の詳細は過去、常に変化してきた。差動伝送インタフェースの速度が過去、世代ごとに2倍〜5倍に向上してきたからだ。今後も差動伝送の速度は向上していく。コモンモードフィルタはまず、この高速化に対応していかなければならない。
(後編に続く)
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