“アフター・コロナ”の半導体産業を占う 〜ムーアの法則は止まるのか:湯之上隆のナノフォーカス(24)(5/5 ページ)
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響は各方面に及んでいる。もちろん半導体業界も例外ではない。最先端の微細化など次世代の技術開発ができない、製造装置が入手できない――。半導体産業では、これが現在の最大の問題である。本稿では、なぜそうなのか、今後どうなるのかを考察する。
アフター・コロナ(AC)の世界はどうなる?
2001年にITバブルが崩壊し、2008年にリーマン・ショックが起き、2011年には東日本大震災が起きた。そして2020年にはコロナ・ショックである。10年に1度、大きな事件や災害が起きている。
しかしそれでも、半導体産業は成長を続けてきた(図8)。2018年に、世界半導体出荷額は4687億ドル、出荷個数は1兆44億個となり、いずれも過去最高を記録した。世界人口は約77億人であり、1人当たり1年間で、約61米ドルおよび約130個の半導体を消費していることになる。
人類の文明の進歩には、半導体が欠かせない。その重要性は、年々高まっている。コロナで半導体産業が崩壊するわけにはいかないのである。
では、どうしたらいいのだろう?
大事件や災害は、弱者を直撃する。半導体産業でいえば、装置の部品や材料を製造している日本の中小零細企業がそれに該当する。ヒエラルキーの上に位置する企業は、替えの利かないサプライヤーの財務状態を把握しておく必要がある。場合によっては、救済したり、買収したりする必要がある。そうした対策を講じておかないと、ACの世界で自社の完成品をつくることができなくなる。
一方、コロナ騒動を、またとない下克上のチャンスと捉える企業があるかもしれない。プロセッサでは、シェアの低下が止まらないIntelに代わってAMDが台頭するかもしれない。また、製造装置では、ドライエッチング装置でLam Researchに代わって東京エレクトロンがシェアを伸ばすかもしれない。EUV露光装置では、Cymerに替わって、日本のギガフォトンの光源が採用されるかもしれない。
そして、ACの世界では、半導体、製造装置(その部品や設備)、材料、全ての分野において、生き延びた企業がより強力になると予想される。
コロナと人間の違い
FINANCIAL TIMESのチーフ・エコノミクス・コメンテーターのマーティン・ウルフ氏が、非常に興味深い論説を4月1日の日経新聞に寄稿している。一部引用しよう。
「コロナウイルスはただひたすら自己増殖しようとする。我々はその増殖を食い止めようとする。ウイルスと異なり、人間は選択をする」
「指導者は、落ち着きをかもし出し、理性を駆使するか。我々は経済的な打撃を最小限に抑えながら、病気に打ち勝つか。最も弱い人や国が守られるようにするか。敵意よりも連帯を、内向きなナショナリズムよりも世界的な責任を選ぶか。そしてパンデミック後に、以前より悪い世界ではなく、良い世界を後世に残そうとするか――。」
「ウイルスとは異なり、人間には選択肢がある。ここはうまく運ぼう」(原文ママ)
そう、人間、そして人間の集合体である企業は選択することができる。どうしたら、自身や会社をコロナから守り、ACの世界で飛躍することができるのか。それは、あなたとあなたの会社の選択にかかっている。ぜひ、世界の半導体産業の成長と人類の繁栄につながるような、ベストな選択をして欲しいと思う。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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