携帯の電波のみで自宅待機者を追跡:台湾の「電子フェンス」
台湾は、新型コロナウイルス感染症の拡大を阻止する上で効果的な取り組みを実施したとして、世界的な称賛を得ている。その一環として開発された「電子フェンス」は、隔離対象者を携帯電話機経由で追跡し、確実に自宅待機させるというシステムだ。
台湾は、新型コロナウイルス感染症の拡大を阻止する上で効果的な取り組みを実施したとして、世界的な称賛を得ている。その一環として開発された「電子フェンス」は、隔離対象者を携帯電話機経由で追跡し、確実に自宅待機させるというシステムだ。
GPSは使用せず
各国政府はここ数カ月の間、技術的および人的な取り組みを組み合わせた隔離政策を実施してきた。こうした中、台湾は世界に先駆けて、携帯電話機を使用した追跡システムを実現した。
台湾行政院サイバーセキュリティ局の責任者であるHong-Wei Jyan氏は、「電子フェンスシステムは、スマート隔離システムの一部として機能する。スマートフォンから通信基地局に送信される電波を使用して、携帯電話機の大まかな位置を把握する。GPS情報は使用せず、基地局に送信される電波だけを使う。われわれがこのシステムの開発に着手する前は、GPSデータや、電子ブレスレット、各種IoT(モノのインターネット)デバイスなど、さまざまな他の選択肢についても検討していた。しかし最終的に、携帯電話機からの電波を使用するという判断に至ったのは、最も使い勝手が良くシンプルな上に、プライバシーの問題と新型コロナウイルス感染症の拡大を阻止するという目的とのバランスを取ることができたためだ」と述べている。
このシステムは、電波を監視することにより、隔離患者が自宅から出たり、携帯電話機の電源を切ったりした場合に、警察や地方当局にアラートを発信する。「スマートフォンを自宅に置いたまま外出すれば、屋外でランニングを楽しめるのではないか」などとシステムを侮ってはならない。関係当局が、全ての隔離患者に対して、1日当たり最大2回、確認の電話をかけるためだ。このシステムの目的は、隔離患者が動き回って感染が拡大するのを阻止することにある。プライバシーに関する懸念から、この技術の利用には制限が課されているが、台湾では不満の声はほとんど上がらなかったという。
Jyan氏は、「われわれには、感染症を予防するための法律『Communicable Disease Control Act』に基づく権限がある。このシステムは、コロナウイルス感染症の拡大防止とプライバシー保護とのバランスを、非常にうまく取ることができる。このシステム構築に着手するに当たり、3つの規則を策定した。まず1つ目は、プライバシーの侵害を最小限に抑えること。2つ目は、隔離患者にのみシステムを適用するということ。そして3つ目は、14日間の隔離期間が終了したら、隔離患者のデータを全て消去することである。また、健康申告書の中に、『電子フェンスシステムは、隔離期間中に大まかな位置情報データを収集するためだけに使用する』という注記が記載されている」と述べる。
香港では、隔離された人々に追跡用のブレスレットが渡される。シンガポールでは、政府がテキストメッセージを使ってリンクを送付し、それを受け取った人々はリンクをクリックして自宅にいることを証明しなければならない。
多くの州では、AI(人工知能)を使った封じ込め介入をより良く調整するために、専門家やデータ科学者からなるタスクフォースを設置して、利用可能なデータ(あるいは間もなく利用可能になるデータ)を研究している。
Jyan氏は、「テクノロジーは、COVID-19のパンデミックに関連した問題の解決に大いに貢献する」と強調した。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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