理研ら、トポロジカル電流に生じる整流効果を観測:電流の印加方向で抵抗値に違い
理化学研究所(理研)と東京大学、東北大学による共同研究グループは、磁性トポロジカル絶縁体の量子異常ホール状態において、印加する電流方向に依存して抵抗値が異なる「整流効果」を観測することに成功した。
実験による整流効果を理論計算でも再現
理化学研究所(理研)と東京大学、東北大学による共同研究グループは2020年7月、磁性トポロジカル絶縁体の量子異常ホール状態において、印加する電流方向に依存して抵抗値が異なる「整流効果」を観測したと発表した。
今回の成果は、理研創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの安田憲司客員研究員や十倉好紀グループディレクター、強相関量子伝導研究チームの吉見龍太郎研究員、強相関界面研究グループの川崎雅司グループディレクター、強相関理論研究グループの永長直人グループディレクター、東京大学大学院工学系研究科の森本高裕准教授および、東北大学金属材料研究所の塚崎敦教授らによるものである。
共同研究グループは既に、分子線エピタキシー法を用いてトポロジカル絶縁体「(Bi1-ySby)2Te3」に磁性元素「Cr」を添加した、磁性トポロジカル絶縁体「Crx(Bi1-ySby)2-xTe3」薄膜を作製する技術を確立し、量子異常ホール効果の観測に成功している。今回、研究に用いた試料は、この薄膜を電界効果トランジスタ構造に加工し、表面状態に電荷キャリアを注入できる素子とした。
実験では、2K(約−271℃)の極低温環境で表面状態に電子を注入し、直流電流を加えて抵抗を測定した。この結果、電流の印加方向が「正」か「負」かによって、抵抗値が26%程度異なることが分かった。また、磁場を加えて磁化を反転させたところ、抵抗の大小関係も磁化方向によって反転することが分かった。
制御電圧を加え、表面状態の電荷キャリアを「電子」から「正孔」に替えると、整流効果の大小関係が反転することも分かった。このことは、端電流の方向と表面状態の電荷キャリアが流れる方向との関係に依存して、抵抗の大小が変化することを意味しているという。
共同研究グループは、端状態と表面状態間の非対称な散乱に基づき理論計算を行ったところ、実験で観測された整流効果を再現できることが分かった。
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