シリコン内電子スピンの量子非破壊測定に成功:電子スピン情報をいったん別に転写
理化学研究所(理研)と東京工業大学の共同研究チームは、シリコン内電子スピンの「量子非破壊測定」に成功した。量子コンピュータにおける量子誤り訂正の機能を実現することが可能となる。
量子コンピュータで量子誤り訂正を可能に
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの米田淳研究員(研究当時)と樽茶清悟グループディレクター、東京工業大学の小寺哲夫准教授らによる共同研究チームは2020年3月、シリコン内電子スピンの「量子非破壊測定」に成功したと発表した。量子コンピュータにおける量子誤り訂正の機能を実現することが可能となる。
シリコン中の単一電子スピンを応用した量子コンピュータは、新しい動作原理に基づく次世代コンピュータとして注目されている。こうした中で、シリコン中の単一電子スピンを読み出す手法としてこれまで主に用いられてきた、電子スピンを電荷に変換して検出する方法は、スピン状態が必要以上に破壊されるため、量子誤り訂正などの処理が難しかったという。
共同研究チームは今回、イジング型の相互作用を用い、隣接する別の電子スピンに情報をいったん転写して読み出すことで、量子非破壊測定を初めて実現した。実験では、シリコン中に2つの電子スピンを隣り合わせで閉じ込められる試料を用いた。電極に電気信号を加えると、電子スピンを自在に制御できる構造である。また、転写する時に、測定するスピン量(上向きか下向きか)が壊れないよう、局所的な磁場を加えるための極めて小さい磁石を、試料上部に取り付けた。
電子スピンをいったん転写した後に、転写先の電子スピンの向きを電荷へ変換する方法で読み出す方式である。この方式により、検出速度の高速性と非破壊性を両立させることに成功した。しかもこの手法は、拡張性への制約が少ないことも実証されたという。
開発した量子非破壊測定は、「非破壊性」と「読み出し」の機能を備えている。これらの機能を組み合わせることで、電子スピンの向きを確定させる「初期化」を実装できるという。その精度は非破壊性が99%、読み出しと初期化は80%である。
量子非破壊測定は、単一電子スピンを繰り返し測定できるのも大きな特長である。これを行うことで、読み出し精度を最大95%に高めることができるという。さらに、観測結果から精度の高い事象を予測する手法を開発。下向きスピン状態への初期化(向きの確定)の精度を、最大約99.6%に高められることも分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 理研ら、半導体量子ビットの量子非破壊測定に成功
理化学研究所(理研)とルール大学ボーフム校らの国際共同研究グループは、電子スピン量子ビットの量子非破壊測定に成功した。 - 理研ら、微小な磁気渦を形成する磁性材料を開発
理化学研究所(理研)らによる研究グループは、微小な磁気渦(磁気スキルミオン)を形成する新たな磁性材料の開発に成功した。 - 高移動度有機半導体を実現する結晶構造制御法開発
理化学研究所(理研)は、有機分子の構造を精密に設計することで、有機半導体の配列や配向(結晶構造)を有効に制御できることを発見した。傾斜型π積層構造を持つ有機半導体の開発に弾みをつける。 - 理研、トポロジカル超伝導体で整流効果を観測
理化学研究所(理研)らの研究グループは、トポロジカル絶縁体の超伝導界面で、超伝導電流の整流効果(ダイオード効果)を観測した。 - 電子スピン情報の読み取りに成功
大阪大学らの研究グループは、単一光子から作られる単一電子スピンの計測技術を開発し、電子スピン情報を読み取ることに成功した。 - 光子から炭素へ量子テレポーテーション転写に成功
横浜国立大学の小坂英男教授らは、量子テレポーテーションの原理を用い、量子メモリに光子の量子状態を転写することに成功した。大規模な量子インターネットの構築に必要な量子中継器などへの応用が期待される。